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【20、最後のクリスタル】

 セシル達はドワーフの城に行き、ジオットに今までの話をした。ジオットはこうなったら封印の洞窟にある最後のクリスタルを死守しなければならないと話した。ジオットは、娘のルカを呼び、彼女の首飾りをセシルに渡した。どうやらその首飾りはルカの母の形見で、これが封印の洞窟を開く鍵らしい。
 しかしそこに行くまでには、溶岩の海を越えねばならない。赤い翼にはその熱に耐えられないであろう。
「今の僕達にはどうすることもできない。解決策が見つかるまでここでのんびりするとしよう。」
 セシルの提案で、しばらくドワーフの城でゆっくり静養することにした。ルビカンテと戦った疲れが皆にはまだ残っている。ここで少し羽根休めするのもいい考えと言えた。
                    ☆
 一行が何気なく救護室に入った時、そこには実に意外な人物がかつぎこまれていた。
「シド!?」
 ベッドには全身包帯を巻かれたシドがいた。かなりの重傷だというのに、やかましくドワーフ達を怒鳴っていた。
「いつまで俺を寝かせておく気だ!俺はもう大丈夫だと言っておろう!!」
「そんな姿でおっさんよくしゃべるラリ!!」
「寝ていなきゃいけないラリ!!」
 セシル達はシドが生きていただけで喜んだ。ローザは真っ先に駈け寄った。
「無事だったのね!!」
「あれだけ格好つけておいて・・!」
 カインは喜びながらも呆れていた。
「ワハハハハ!心配しておったのか?」
 シドは悪びれずに笑った。皆喜んでいたが、初対面のエッジは怪訝そうな顔をしていた。サイゾーからシドについて話は聞かされていたが、実際に会うのは初めてだったのだ。
「何だ、シドってこんなジジイだったのか?」
 シドはジジイ呼ばわりされてムッとした。
「ジジイとは何だ?!礼儀を知らぬ若造だな!!」
「礼儀を知らんのはおめえだろ?俺はエブラーナの王子エッジだ!!」
「王子?その割には品性のかけらも感じないな?!」
「な、何だと?!」
 エッジは大人気ないが、怪我人相手に声を荒げた。リディアがすぐになだめかかった。
「おじちゃんは怪我をしているからそんな大声出さないの!!」
「わ、悪リ!」
 エッジが頭をかくと、シドはすかさずニヤニヤと笑って言った。
「リディアの尻に敷かれておるようではまだまだだな!」
「何だと!このくそジジイ!!」
「ああ、もう!だから大声出しちゃダメ!!」
 再びエッジとシドがにらみ合い、リディアがおろおろし出した。他の3人はむしろ微笑ましいと笑っていた。
「年を考えない老技師に口の悪い王子か。いいコンビかもしれないな。」
「リディアったら真剣に心配しちゃって・・!可愛いわね。」
「まあ、どっちにしてもシドがあれだけ元気でいてくれてよかったよ!!」
 コミカルで微笑ましい光景だった。
                    ☆
 シドはセシル達が封印の洞窟に行きたがっているという話しを聞き、飛空艇の改造をすると言い出した。ドワーフやエッジは、しっかりこき使われるはめになった。材料運びにはネフティも加わって、よくシドの言うことを聞いて手伝っていた。
「おい、あんな小娘までこき使うことないだろう!」
「だったらお前がその分働かんかい!」
「な、何でそうなる?!」
 2人がけんかしていると、ネフティは、自分は大丈夫だからと、しっかりと部材運びに励んでいた。ネフティは並の男よりずっと力があるが、エッジには男としてのプライドがあるので、時々危険な道具を彼女から取り上げた。
「おっと、これは俺が持っていくぜ!可愛い顔に傷がついちゃ大変だからな!」
「す、すみません。私はけっこう丈夫ですけど・・。」
 ネフティが恐縮していると、リディアは軽く笑って言った。
「エッジもこう言っているから気を使わなくていいよ!」
「あ、じゃあお願いします。」
 ネフティはすまなそうにエッジに頼んだ。
「ああ、面倒だな!何でおれがこんなこと・・。」
 ネフティがいなくなると、エッジはぼやいた。
「だったら格好つけなきゃいいのに。エッジは可愛い女の子には甘いから!」
「ははあ、それってもしかして嫉妬か?」
 エッジがうれしそうに言うと、リディアは笑って否定した。
「そんなわけないでしょ。エッジらしいって思っただけ。でもやっぱり女の子には優しくしてあげないとね!」
 リディアはエッジの気持ちに気づいていないようである。エッジががっかりして動かずにいると、シドからサボるな、と雷を落とされていた。
                    ☆
 そうこうしているうちに、飛空挺の改造がすみ、一行は少し無茶しすぎたシドを見舞った。
「少し無理しすぎたわい!」
「しばらく安静にしてなきゃだめだよ!」
「悪いことをしたわね。こんな身体のあなたに無理をさせて!」
「じいさん、あんたには負けたぜ!」
 一行は呆れると同時に感心していた。シドが無理してくれたおかげで封印の洞窟にいけるのだ。
「おっさんのことは我々に任せるラリ!」
「おっさんが早く元気になれるようしっかり手当てするラリ!」
 ドワーフの2人の看護士が、シドのことは任せるようにと、皆にエールを送った。
                    ☆
 封印の洞窟に行く前、なぜか一行は胸騒ぎがして眠れなかった。セシルとカインが気を紛らせるために酒を飲んでいたら、ローザとリディア、そしてネフティとルカまでもやってきた。
「一体どうしたんだ?」
「うん。何だか寝付けないの。興奮しているだけだと思うけど。」
 ローザやリディアは多分気のせいだろうと思った。ネフティはしかし誰よりも強く嫌な予感がしていた。
「封印の洞窟に行かないほうがいいような気がする!クリスタルをそのままにしていたほうが安全なのでは・・。」
 それに対しては真っ先にリディアが答えた。
「放っておいたらゴルベーザに先を越されてしまう。どんなことがあっても私たちの手でクリスタルを守らなくちゃ!!」
 ネフティはリディアの強いまなざしを見て、考えた。なぜこの人はこんなに前向きで強いのだろうか。そう言えば、ネフティが自分の存在を自ら否定するようなことを言った時、目を覚まさせてくれたのも彼女だった。あの時リディアにぶたれた頬は確かに痛かったが、同時にとても温かさを感じたことを彼女は覚えていた。
「リディアさんは、強い人ですね。私少しいやな予感がしたから、弱気になっていたのです。ごめんなさい!」
 ネフティがかすかに笑みを浮かべて言うと、カインは彼女の頭に手をおいて、クシャッと髪をなでた。
「ネフティ、大丈夫だ!俺達は必ずクリスタルを持って帰還する。君は安心して待っていてくれ!!」
 カインは妹に語りかけるように言って笑った。ネフティは強くうなずいた。
                    ☆
 一行は次の朝、封印の洞窟にやってきた。あの後4人はなんとか寝付けたが、エッジはどうしても寝付けず1人で月を眺めて一晩すごしたらしい。もっとも忍者であるエッジにとって、1日くらいの徹夜は苦痛でもなんでもなかった。ただ彼の寝られなかった理由も、嫌な予感がしたからということだった。
「何か胸騒ぎするぜ。まあ、奴が現れることは考えておいたほうがいいな。」
 エッジはゴルベーザがやってくるかもしれないと思った。セシルは気をつけると答えた。
                    ☆
 セシル達は洞窟に入ってまもなく、扉を発見した。その扉の前で、セシルはルカの首飾りを掲げた。扉はゴオーっと大きな音をたてて開いた。
「さあ、行くぞ!」
 彼らは奥へと進んだ。この洞窟はその存在自体が罠になっている。奥にもすぐ扉があったが、近づくとそれはアサルトドアーというモンスターになっていた。モンスターの中には宝箱に化けて人をおびき寄せるというミミックなるものがいるが、それがドアの形になったものであろうか。それとも人工的に作られたモンスターなのであろうか。いずれにしてもクリスタルを守るための罠となっていることだけは確かである。
「やっかいな技をしかけてくる!とにかく回復しながらこまめに倒していくしかないな。」
 セシル達はハイポーションなどを使って体力を回復させながらこのやっかいな罠を倒していった。何度かアサルトドアーを倒して奥に進むうちに、セシル達はクリスタルルームにたどりついた。
                    ☆
 セシル達はクリスタルを手に取って部屋から出ると、彼らの前に不気味な壁のモンスターが迫ってきた。
「なるほど、クリスタルが持ち出されないようこの壁自体がモンスターとなっていたのか?」
「感心している場合か?!とっととあれをぶち壊さないと俺たちがペシャンコになるぜ!!」
「壁のせまってくるスピードを遅くしないと!!」
 慌てふためくメンバーたちの前に、ローザが進み出てデモンズウォールなるモンスターの壁にスロウをかけた。
「さあ、今のうちに力いっぱい攻撃して!!」
 セシルもカインも、エッジも力いっぱい武器でデモンズウォールを攻撃する。リディアも召喚魔法は使わず、今覚えている黒魔法で一番強いサンダガを唱えた。ローザも弓よりも破壊力のある杖で攻撃した。どうしようか迷っている時間はなかった。速攻でデモンズウォールを倒さなければ彼らは全員押しつぶされてしまうのだから。
「あと一息、あと一息よ!」
 リディアがこう言うと、エッジは忍術を唱えた。激しい電撃がモンスターを直撃した。
「ギャアアオウ!!」
 デモンズウォールはエッジの雷迅を受けて、粉々になって砕け散った。
「すごいじゃない、エッジ!!」
「だろ?おめえのサンダガ見て、もしかしたらって思ってよ!!」
 エッジは得意そうに笑っていた。
「ネフティが言っていた嫌な予感ってこれだったのね。」
「でもどうにか無事で良かった。」
 セシルもローザもデモンズウォールを倒したことで、ほっとしてしまい、これから何が起こるかわからないということなど微塵も考えなかった。
                    ☆
 洞窟の入り口までやってきた時、急にカインの様子が変った。いきなりエッジを突き飛ばしたのだ。
「カイン、どうした?」
「すっかり油断していただろう。私の術がそう簡単に解けるとでも思っていたのか?」
 カインが確かにしゃべっていた。しかしその声は決して彼のものではなかった。
「カイン、しっかりして!」
 ローザがカインに声をかけると、カインはローザをも突き飛ばしたのだった。いつものカインよりも強い力である。
「カイン、しっかりしろ!!」
 セシルがカインに傷をつけない程度にかるく当て身をしようとしたが、カインはそれを軽くかわし、セシルからクリスタルを奪った。
「これで全てのクリスタルはそろった。ご苦労だったな!!」
 カインはゴルベーザの声で笑い声をあげ、目にもとまらぬスピードで走り去っていった。
残されたメンバーはあまりのことになすすべもなく、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。

第21話 「心の闇」
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