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【38、双子の屍竜】

 セシル達はプレイグを倒した後も、まだこの階から不快な臭いが漂っていることに気が付いた。
「何だかまだ嫌な臭いがしやがる。血の臭いというより、毒々しい臭いだぜ!!」
 エッジは鼻を押さえて言った。セシル達はまだ凶悪なモンスターがいるのではないかと、臭いのするほうに行ってみた。別にモンスター討伐にやってきたわけではないが、今までの傾向から考えて、奥に進むには凶悪なモンスターがいる場所を通過しなければならないという勘が働いたのだ。そしてそれは見事に的中した。
                    ☆
 そこには巨大なアンデッドと呼ばれる骨のモンスターが2体いた。その大きさと形態から人間ではなく竜の骨であると思われる。
「我らはルナサウルス!」
「その名の通り。誇り高き月の竜。ゼムス様に逆らう愚かな人間どもよ!我ら兄弟の力、とくと見せてくれよう!!」
 2体のルナサウルスは、息を噴出した。ものすごい悪臭である。その臭いをかいだセシル、エッジの2人は身体が小さくなり、どこかへ行ってしまった。
「あたし達も負けない!!」
 リディアはファイガを唱えた。アンデッドなら炎の攻撃に弱いだろう。しかしその炎は
こともあろうに跳ね返ってカインを直撃した。
「愚か者!この我らには魔法は効かぬ。」
「それではこちらから魔法をお見舞いしよう!!」
 ルナサウルスは連続でバイオを唱えてきた。しかもそれを受けたのは先程リディアのファイガでダメージを受けているカインである。カインはかなり痛烈なダメージを受けただけでなく、身体が毒に侵されてしまった。ローザは急いで治療の魔法エスナを唱え、解毒はできたものの、とても戦闘できるような状態ではなかった。
「しっかりして!カイン!!」
 ローザはカインに回復魔法をかけるが、カインは目を開けない。リディアはルナサウルスをキッとにらみつけた。
「あなた達わざとカインを?!」
 ルナサウルスはそれを聞き、リディアをあざ笑う。
「やっかいな男共にはさっさと退散してもらったのだ。」
「あとはか弱いお嬢ちゃん達だけ。せいぜい楽しませてもらうよ!!」
 ルナサウルスはそういってわざと手加減してリディアに攻撃を仕掛けてきた。リディアは必死でそれをよける。ローザはショックのあまり動けずにいた。
 リディアはローザの肩を叩いた。
「ローザ、気持ちは分かるけどあたし達2人だけででも戦おうよ!!」
「とても勝てそうにないわ!一体どうしたらいいと言うの?」
「しっかりしてよ、ローザ!そんなのあなたらしくない!!」
 リディアにとってはかなり前のことになる。あのホブス山でのこと。ミストの村を襲ったあの炎が恐ろしくてトラウマを抱いていたリディアに、叱咤激励してくれたローザ。彼女は今でもリディアにとって、強くて美しくて優しい憧れの女性なのだ。そんなローザが弱々しく仲間にすがっている所などは見たくなかった。
「あたしの知っているローザはとても強い人だった。強くて賢くて、本当にお姉さんみたいな人だった。」
 リディアがローザを見る目には絶対に負けないという闘志が表れていた。ローザはリディアがまだ小さな女の子だった時のことをよく覚えている。妹のように愛らしい女の子だった。村を焼いた炎を恐れてファイアが使えないのも無理はなかった。それでも彼女はちゃんとそれを克服してファイアを使えるようになった。彼女こそ強いとローザは思う。そしてあの時の小さな女の子が今こうして自分を叱咤激励してくれている。
「でも、どうしたらいいのかわからない。どうしたらいいのか・・。」
「だったら一緒に考えようよ!きっと何か方法があるかもしれないよ!!」
 リディアの強い瞳と言葉にローザは心から勇気づけられた。実際にどうすればいいのかわからない。けれどリディアの目を見ていたら、なぜか何とかなるように思えてしまう。
「そうね、あなたの言うとおりだわ。あきらめないで戦いましょう!!」
 ローザは立ち上がってリディアと同じようにルナサウルスをしっかりと見据えた。
                    ☆
 ルナサウルスはいやらしくも、なおも手加減して襲い掛かってくる。もちろん優しさによる手加減ではない。リディアとローザの戦闘力を完全に見くびっていて、まるで猫がネズミを生殺しにするかのように楽しんでいるのだ。腹を立てたリディアはふと言った。
「女ってどうしてこんなに力が弱いのかな?気持ちだけだったら負けないつもりなのに!!あたしもバハムートみたいに竜の血を引いていたらよかったのに・・。」
「それだわ!!」
 ローザは何か気が付いたようだった。
「私達もリフレクをかけておけばいいのよ!!」
「でもルナサウルスは魔法をかけてくる気はないみたいだけど・・。」
「私に考えがあるのよ!」
 ローザはリディアと自分にリフレクをかけた。
「で、どうするの?」
「リディア、私にファイガをかけて!!」
 リディアは言われるままに黒魔法ファイガを唱えた。ローザは巨大な炎に包まれたが、その炎ははねかえってルナサウルスの片方を直撃した。極端に炎の攻撃に弱いアンデッドにとってこの攻撃は致命的だった。
「それじゃ、私はリディアにこの魔法を!!」
 今度はローザがリディアに聖なる攻撃魔法ホーリーを唱えた。リディアは聖なる光に包まれたが、その光もまたはねかえってもう一方のルナサウルスを直撃した。
 2体のルナサウルスはこうしてそれぞれ炎と光によって浄化されていった。2人は抱き合って喜んだ。2人は外見的にはほぼ同じくらいの年齢だが、その姿はまるで仲の良い姉妹のようだった。
                    ☆
 カインは少ししてから意識を取り戻し、面目ないとローザとリディアに謝っていた。セシルとエッジは混乱してどこかに行っていたようであるが、しばらくしてから目が悪く、しゃべることのできない小さな蛙の状態でひょっこり現れた。戦闘が終わってから混乱状態だけは回復したのでローザとリディアの前に現れたようである。ローザは2人にエスナをかけて元の状態に戻してやった。
「おめえとローザだけでやっちまったのか、すげえな!!」
 エッジは感心して辺りを見回した。ルナサウルスがいた場所に何かがキラキラと輝いていた。そこにはリボンが2つ落ちていた。エッジはそれらを拾って1つはローザに渡し、もう1つはリディアに渡した。ローザとリディアは、お互いの髪にそのリボンを付け合いっこしていた。
「あいつらのおかげで助かったぜ!!」
「2人とも立派な戦士だったよ。本当に彼女達は強いよ!!」
 セシルとエッジは、彼女達が無理やり魔導船に乗り込んできた時は本当に心配でしぶしぶ承知したにすぎなかったが、今では本当に良かったと心から思った。

第39話 「月の海の悪魔」
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