【第101話】

後悔と同行


カサーブで親方の知りあいの神父トールに会う。

トールは盗賊上がりの神父だった。

そして、神父の魔法により俺の肩の傷が治った。




「癒しの魔法なんて、はじめて見たよ。

 肩の痛みもない。礼を言う」


俺は神父に感謝した。


「いえいえ、もらうものはもらいましたしね」


この辺りが盗賊あがりということか。


「たいしたものだな・・・癒しの魔法が使えることもそうだが

 あんた、俺が武装していたのに怪我をしていたのわかっただろ?」


「あなたが怪我をしているのはすぐにわかりましたよ。

 動きを見ていればね。

 歩き方などから、親方と同じ組織の方だと直感しました。。

 しかし、体に痛みがあれば、歩き方も微妙に変化がありますから」


部屋に入ってきただけで、把握するということは

並外れた洞察力も持っているということだ。


もしかしたら、この男、俺やゼネテスよりも

盗賊としての能力が高いかもしれない。


「親方もこの人が組織を抜けていたかったんじゃねぇか」


俺は親方に冗談を言う。


「この男は代々神父をやっていての。

 組織に入る前から癒しの力が使えた。

 だが、この男がいる村での、

 例の村人が全員行方不明になる事件に巻き込まれたのじゃ」


「私はちょうどそのときは村を出ていて、被害はうけませんでした。

 しかし村に帰ったら妻も娘もいませんでした。

 村の人間がそのままそっくりと消えていたのです。

 そのとき、親方と出会い、話を聞き組織に入れてもらったんですよ」


「そうだったのか、それは立ち入ったことを聞いたな。すまない」


もし、村人が行方不明事件に巻き込まれたということは

おそらく家族も魔物化され、生きてはいないだろう。


「いえ、気にしないでください。

 過ぎたことですから。

 ですが、私にはちょっと組織が肌にあいませんでして。

 無理を言って、抜けさせてもらったのです」


「こやつが組織にいたのはお前が組織に入る直前までだったな。

 組織にいた期間は一年ちょっとだったが

 年のくせにすこぶる物覚えがよくての。

 盗賊の技術も短期間でものにした」


「年のことはよしてください。それに年は親方の方が上でしょう」


親方の本当の年は知らないが

たぶん六十は超えているだろう。


「まぁ、過去の話はこのくらいにしておこう。

 先を急ぐでの。助かったわい」


親方もトールに礼を言った。


「いえいえ。それよりこれからどちらへ?」


「イシスに行く」


「イシスへ?」


トールは顔を曇らせた。


「また、なんで今イシスへ・・・」


「イシスで何がおきているか把握しているようじゃの」


親方の目が鋭くなる。


「まぁ、そのくらいは知っています」


トールはうなずいた。


「先日の調査で、我々が追っていた行方不明の事件の

 元凶が魔王バラモスであることがわかった」


トールの顔が険しくなる。


「この男を含めてテドンに人を派遣し調査にいってもらったのだが、

 そこで確証が得られた。

 他の者は生きて帰れず、唯一の生き残りがこやつじゃ」


親方が俺を指差す。


「なるほど、そのときに左肩を痛められたのですね」


左肩は縄抜けするために自分で砕いたのだが

俺は黙ってうなずいた。


「このままではテドンの次にイシスが同じ運命になれば

 世界は確実にバラモスの征服に一歩近づくだろう。

 ロマリア王からも内密なワシに支援を求めてきたのだが。

 イシスにいって、魔物達を退けるつもりじゃ」


「そうですか・・・」


トールはそれを聞いて何か考えているようだった。

少しして、トールは口をひらいた。


「私も一緒に行ってもよいですか?」


「お主が・・・か?」


親方も少々驚いているようだった。


「えぇ、私がいれば癒しの魔法も使えますし、足手まといにはならないと思います」


「そりゃぁ・・・あんたがいてくれればこちらは大助かりだよなぁ?」


俺は親方に同意を求めた。


「やはり、ゆるせないか」


親方は渋い顔をして言った。


たぶん、親方は行方不明になった事件について、

魔王やその手下をゆるせない、と言っているのだろう。


「えぇ、当然です。魔王もそうですが、自分自身にもです。

 私一人が、村に残っていたとしても

 皆と同じ運命になっていたかもしれませんが

 もしかしたら何かできたかもしれない、

 十年近くたった今でも家族の元にいなかったことを後悔しています」


第102話 死に場所

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