【第107話】

ミイラ男


夜営を行う。

火を起こすが、これが魔物よけになるかは定かではない。

昼間のような火をはく魔物もいるからだ。




俺達がイシスでの予定など話していると

見張りの一人が声をあげた。


「おい、あっちから誰か来るぞ」


暗くてよく見えないが、魔物ではなく人のようだ。

何人かこちらに向かってくる。


「傭兵志願のやつらかな」


俺は親方に声をかけた。


親方は何も言わない。


目を細くして、相手を見定めているようだった。


ようやく火の明かりで見える位置まで近づいて

その姿を見てぎょっとした。


近づいてきた奴らは全身が包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「な、なんなんだ・・・」


仲間達も動揺する。


包帯男の目があやしく赤く光る。


「魔物じゃ!離れろ!」


親方が警戒の声をあげたと同時に

包帯人間は仲間の首を締めあげた。


「く、苦しい・・・」


俺は締められあげた男の近くに偶然いたので

反射的に包帯男に体当たりをかました。


仲間ごとふっとばしてしたが

包帯男が仲間から離れる。


「こいつらも魔王によって作られた魔物ってことかよ!」


ゼネテスが剣を抜く。


「もしかしたら、人身売買の組織によって作られた魔物かもしれないな」


俺もそう言いながら武器をかまえる。


包帯男は全部で五人いた。


そのうちの一体がゼネテスにつかみかかろうと腕を振るった。

ゼネテスがかわすと、変わりに張ってあったテントに腕が当たり吹き飛んだ。


「すげぇ、力だな。

 だが遅い!」


ゼネテスは横から大剣をふるい、胴ご切り落とす。

上半身が地面に落ち、下半身はしばらく地面にたっていたが

そのうち崩れ落ちた。


しかし切り落とした上半身がこっちに這ってくる。


「気持ち悪ぃな!」


ゼネテスが吐き捨てるように言うと

トールがでてきた。


「この場は私におまかせを」


そう言うと何かもごもごと言い、手をかざした。


「ニフラム!!!」


トールの手から光が発生し、包帯男を包んだ。

包帯男は、その光の中に消えてしまった。


「おぉ!!!」


俺は思わず感嘆した。


敵に炎や爆風でダメージを与える魔法は今まで見たことがあったが

敵をそのまま消し去る魔物は初めて見た。


「普通の生きている魔物にはあまり効果がない魔法ですけれどね」


そう言いながら、トールは立て続けに魔法を唱え、

包帯男を全部消し去った。


「効けば、さっきのムカデに使っているもんな」


ゼネテスが剣を鞘にしまい、トールに話しかけた。

きっとゾンビなど死者を浄化する魔法なのだろう。


「だが、おかげで助かった。

 被害はさほどでておらん」


親方もほっとしたようだ。

被害は吹き飛ばされたテントと、首を締められた仲間だけだ。

特に外傷もなく、すぐにそいつも立ちあがった。


だが、トールがいなかったら、もっと時間がかあっただろうし

仲間も疲労をしていただろう。

剣で切っても息の根をとめられなかった魔物だから

剣だけでは倒せなかったかもしれない。

親方の雷神の剣を使えば、倒すことも可能だろうが

俺達だけで戦った場合、たいまつなど火を使って倒す必要があったのかもしれない。


親方も含め、俺達は魔法が使えないので

トールがいてくれるのはとても助かる。


第108話 イシスの街

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