【第115話】
エビルマージ
スクルトの魔法で強化された魔物には
まったく攻撃が通じなかった。
俺達は全滅を待つしかなかったが、親方の持つ雷神の剣が戦況を変えた。
盗賊の仲間も兵士達も唖然としていた。今、目の前で起きたことが一瞬理解できなかった。
強すぎる力、信じられない力を目の前で見せられ思考がついていかなかったのだ。
「す、すげぇ・・・」
しかし、親方の雷神の剣が魔物を全滅させたことを理解するとようやく俺は声が出た。
「お、親方、すごいっすよ!」
盗賊の仲間達も我に返り、興奮する。
「戦に勝ったぞ!」
兵士達も歓声をあげた。なんとか今日のところはイシスの街を守ることができたようだ。
”まさか人間に極大魔法を扱えるものがいるとは・・・”
フード男が声を発した。そういえば、まだコイツがいた。元凶だ。コイツをやらなければ、また魔物を操り街を襲うだろう。だが、タダモノではない気配も発していた。そのため、攻撃をすることがためらわれた。
そのフード男に突進する男がいた。ゼネテスだ。
ゼネテスが大剣を振るい、一刀両断した。ように見えたが、ゼネテスが切りつけたのは幻だった。フード男は上空に飛び上がっていた。
”フハハハ、人間どもよ、少しは手応えがある奴がいるようでうれしいぞ。
今回は新しく作った地獄のハサミの実験を踏まえた戦いだったが、
その検証結果は得られた”
「ふざけるな、下りてきやがれ!」
ゼネテスがフード男に怒鳴る。
”威勢の良い奴らだ。この場で私が貴様らを全員やってもよいが、
それでは面白みもないからな。
今日のところは見逃してやる。
もし私に会いたいのであれば、ここから北にあるピラミッドに来るがよい。
特に、そこのベギラゴンを放った、老人。もてなしてやろう。
魔王バラモス様の配下、エビルマージ様がな”
親方は無言でエビルマージを睨んでいた。
「誰がいくかよ!」
俺が変わりにエビルマージに怒鳴り返した。
”それも然り。
だが、来ないで私を倒さなければ、
何度でも街は襲われるであろう”
「き、きたねぇ・・・」
”では待っておるぞ”
そう言うと声は消えてしまった。
「よく魔物達を阻止してくれました」
マヨイが城門で迎え入れてくれた。
「かなり危なかったがな・・・」
ゼネテスが渋い顔をする。
第一部隊が全滅、第二部隊が三分の一、俺たちの仲間も三人やられた。
帰りにイシスの兵から聞いたことだが兵士の中に魔法が使えるものはおらず、魔法使いや僧侶もイシスにはほとんどいないそうだ。
もし、親方がいなかったら、第二部隊、第三部隊があのカニの魔物に倒されていただろう。
魔法の使い手がイシスには皆無というのが今回の戦の苦しさをあらわしていた。
そういう意味でも今回の戦は兵士やマヨイから感謝された。傷ついたものはトールが魔法で癒しをしている。
「エビルマージとか言っていたな。
奴がこのイシスに攻め込んでいる首謀者かな?」
俺は親方に意見を求める。
「わからんが、その可能性は高い。
あの軍隊ガニもどきの魔物、”地獄のハサミ”と言ったか
人体実験と同様に、あのような魔物を作り出し、世界征服を狙っているのは確かだろうな」
「魔物を作り出す技術があるということもわかったな」
ゼネテスも口を出してきた。
「敵の数には限りがあると思っていたが、作り出す技術がある以上、
大元を倒さないと、どうにもなりませんぜ」
「わかっておる。ピラミッドに来いと言っていたな。
確かイシスには古代宝物が眠るピラミッドがあるという話は聞いておるが
あそこは、大変入り組んでおり、罠も多く、一度迷いこんだものは簡単に出られぬ場所だと聞いておる。
またイシス女王の許可がないと立ち入りができない場所なはずじゃ」
「そういうことでしたら、女王様に今回の件を話し、
立ち入り許可をうけてきます」
マヨイが親方に言う。
「ただ、ピラミッド内部の地図があるかどうかはわかりません。
そういう意味では皆さんを大変危険な場所に派遣することになってしまうかもしれません」
マヨイは申し訳なさそうな顔をする。
「それに、あのエビルマージっていう野郎がわざわざ来いってことは
奴が仕組んだ罠もあるだろうしな」
「普通に考えだろうなワシらをピラミッドに呼び寄せて始末しようということだろうしな」
仲間たちも皆黙りこむ。
「親方、どうするんだ?」
ゼネテスが親方に聞く。
親方は無言だった。何か考えているようだ。
第116話 親方の戦略
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