【第121話】

笑い袋


一階の探索をある程度すると二階への階段を仲間が見つけた。

親方の考えもあり、すべての探索をせず、二階に進むことにした。




二階は一階より狭い通路だ。

人一人が普通に進めるのでやっとだ。


「息苦しいな」


ピラミッドの中は砂ぼこりっぽく、押しつぶされそうな感じだ。


「もしこの壁が動いたら全員すぐにつぶされるの」


親方が真顔で言った。


「演技でもないこと言わんでくださいよ」


ゼネテスは背中の大剣を片手でささえて、なんとか通路を通る。


それととてもだがこの通路ではゼネテスの大剣は使えない。

剣を抜くことさえできないだろう。

俺の剣や親方の雷神の剣も振り回すのは厳しい。


もし魔物が現れたらショートソードやナイフでの戦いになりそうだ。


しかも通路は人一人しか通れないので先頭の奴が一人で対峙しないといけない。


「私が二番手にいきましょう。

 もし魔物が現れ、傷をつけられても後ろから回復ができます」


先ほどまで地獄のハサミとの対策で控えていた

トールが前にでてきた。


「よし、じゃぁ、先頭は俺がいくぜ」


俺が一番手、トールを二番手として探索を続ける。


右手で剣をぬき、床にあて落とし穴を調べる。

二階は十字路の嵐だった。


「わけ、わからねぇ!」


探索の途中で嫌になるほどの数だ。

トールは細々と地図に書くが、地図を見ると目がチカチカしてくる。


何度か親方のほうに戻るが、

毎回この細い通路で先頭を交代するのは大変なので

俺とトールがしばらく探索を続けることにした。


何十個目の十字路だろうか。


薄暗い狭い通路から、声が聞こえてきた。


”ケケケケ・・・・”


「魔物か!?」


通路から現れたのは人の顔より一回り小さい

変な袋の形をした魔物だった。


「なんだ、こいつは?」


袋には大きな目と口がついており、笑っている。


ピラミッドに元々すむ魔物か、エビルマージが作った奴かわからないが

警戒は怠るわけにはいかない。


「先手必勝!」


俺は抜き身の剣を一歩踏み出して、突きを放った。

ロマリア時代に習った剣術の一つだ。


袋の化け物はよけたが、かすかに俺の剣がはやかった。

袋の一部がやぶける。


”グキュ!!!”


魔物が悲鳴をあげる。


「余裕こいて笑っているからだ」


俺はもう一度突きをしようとすると

魔物は大きく飛び上がった。


”グキュ!!!グキュ!!!”


魔物はそう叫ぶと体全体が光った。


すると先ほど俺が傷つけた傷が治っていくではないか。


「ホイミの魔法です」


トールが後ろから声をあげる。


「こんな笑える顔しているのに、顔に似合わず魔法なんか使えるのか」


俺がちょっと感心をしているとまた魔物が声をあげる。


”グキュ!!!グキュ!!!”


そうすると、辺りに薄い霧がかかり、魔物が増殖した。


「まじ!?分裂するの!!?」


これ以上分裂させてはマズイと思い、

分裂した一匹に切りかかった。


剣は当たったように見えたが、剣で切りつけた魔物は消えた。

別の魔物が、大きい口で俺の左手にかみついてきた。


「痛ぇ!!!!」


俺は噛みついた魔物を壁に叩きつけると、魔物は離れた。

左手からは血が出ている。


だが、それほど深くはない。

攻撃力は高くないようだ。


俺の左腕が急に光りだす。


後ろからトールがホイミを唱えたようだ。

怪我した左手はすぐに傷が癒えた。


「分裂したわけではありません、マヌーサの魔法を使ったようです。

 幻覚の魔法です。私には一体しか見えません」


トールが冷静に答える。


「そうか、俺には未だにいっぱい魔物が見えるよ」


これでは攻撃が当たらない。


「私にまかせてください」


トールが狭い通路で俺を押しぬけ、全方に出た。


「バギ!!!」


地獄のハサミのときに使っていた真空の魔法だ。

小さな竜巻が現れ、魔物をずたずたに切り裂く。


”グキュ!!!”


魔物は悲鳴をあげた。


「さぁ、トドメを!」


俺はすばやくトールと入れ替わり床に転がっている魔物を剣で突き刺した。


魔物は一回痙攣を起こすと、動かなくなった。


第122話 複数の仕掛け

前ページ:第120話 「最低限の探索」に戻ります

目次に戻ります

ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります