【第130話】

怪しい影


王家の宝をついにみつけた。

過去のイシスの王と思われるミイラと

獣の爪をかたどった黄金の爪。


俺達は宝に見とれた。

エビルマージのことは既に頭になかった。




しかし今までに見たことがない武器だった。

どのように使うのだろう。

それともただの美術品だろうか。


「武道家が使う鉄の爪に似ているな」


ゼネテスがつぶやく。

なるほど、ということはあの爪を手にはめて使うのか。


親方は無言で黄金の爪に手を伸ばした。


俺は親方を見ると、親方の目は怪しく光っていた。

そして薄気味悪く笑っていた。


今までに見たことがない親方の顔。

自分の父ともとれる顔。


俺はそれがあまりに違和感があって正気を取り戻した。


「親方、触るな!」


ゼネテスが俺の声をきいてはっとする。

正気を取り戻したか。


しかし、親方は既に黄金の爪を手にとっていた。


”王家の封印、今解かれた”


無機質な声で話した。

親方の声と似つかない。


親方は黄金の爪を右腕に装着した。


そして突然血しぶきがとぶ。


「グワァァァ!!!!」


ゼネテスの絶叫だった。

ゼネテスは左腕から大量の血を流し、高台から転げおちた。


「ゼネテス!!!」


いったい、何が起きたのかわからなかった。


何故ゼネテスが怪我をおったのか。


ぽたっ。


何か液体がたれる音がする。


俺は音がした方を見る。

親方が薄気味悪く笑っている。


そして、右腕に装着した黄金の爪から、血が滴り落ちていた。


親方が・・・やったのか・・・


「何故・・・」


俺の知っている親方はもう目の前にいなかった。


「親方・・・正気を取り戻せ・・・」


そう言うのがやっとだった。


親方はゆっくりと近づいてきた。


そして右腕の爪がきらめく。


俺は反射的に後ろに飛び降りていた。


「くっ・・・」


俺の右頬から血が流れた。


もし後ろに飛んでいなかったら、俺の頭は胴と切り離れていただろう。


「正気に戻ってください!!!」


トールが叫ぶ。


そして小声で何か言うと魔法をとなえた。


「ザメハ!!!」


しかし親方から不気味な笑みは消えない。


「そんな・・・魔法が・・・かきけされた?」


トールが愕然としている。


「これがエビルマージの狙いか!!!」


何故親方が正気を失ったのかわからない。

だが、棺をあけたときに生暖かい空気を感じた。


”王家の封印、今解かれた”


親方から発せられた言葉だ。


あれは王の魂が封印され、親方を操っているのではないだろうか。


親方が高台から一段ずつ降りてくる。

後ろに何やら影のようなものが見える。

あれが親方を操っているのか。


どうすればよい。


「撤退・・・するぞ・・・」


ゼネテスが苦しげに言う。

それしかなかった。


俺達では束になっても親方には勝てない。

そして正気を取り戻すには、親方を操っているものから

開放しなければいけないのだろう。


「魔法が使える領域に一度逃げましょう!」


トールも言う。


そうだ。魔法が使えないのはここが特別な領域だからだろう。

いや、もしかしたらあの黄金の爪が魔法を無力化していることも考えられる。

しかしこの領域に魔法を無効化する力があるのであれば

魔法さえ使えれば、親方の呪いもトールの魔法で解かれるかもしれない。


「ゼネテス、肩をかすぜ!」


「いや、いい。

 俺が親方をくいとめる・・・」


「何をばかな・・・」


「ギャアア!!!!」


仲間の一人が血しぶきをあげながら倒れた。


親方がすぐ目の前まで迫ってる。


「俺も撤退しながら後方にさがる。

 だから、おまえとトールはまずは出口を見つけろ!!!」


ゼネテスが顔をゆがめながら大剣をかまえる。


「だけどよ!」


俺はゼネテスを見殺しにすることができなかった。


「このままじゃ、全滅することがわかっているだろ!!

 俺達の今の目的を考えろ!!!」


「今の目的・・・」


俺達はエビルマージを倒し、イシスに報告すること。

親方が決めた命令は最後まで必ず従わなければならない。


また一人、倒れた。

一番最初に操られていた仲間だ。


生き残りは、俺とトールとゼネテスしかいない。


「わかった・・・死ぬなよ!」


俺はイシスに戻ることを決意した。

誰かがイシスに戻らなければならない。


第131話 閉ざされた隠し階段(執筆完了)

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