【第22話】
一人の老人
俺とリュックはうまくロマリアから抜け出すことに成功した。
もちろん依頼品の金の冠を盗むことにも成功した。夜通し歩いて朝が来たのでカサーブに行く途中一休みをしていたら突然声がした。
「誰だ!?」
周りから誰がいるか気配が感じない。しかし確かに声が聞こえた。リュックの方を見ると、リュックも杖をかまえて緊張した顔をしている。俺の幻聴ではなかったようだ。
「まさか、こんな坊や達が盗むと思わんだ」
後ろから声が聞こえたかと思ったら、一人の老人が背後に立っていた。
「い、いつのまに!?」
俺はその老人と距離をとった。その老人は無防備にただ立っていた。
老人の姿を見ると、旅風の格好で、上から黒い何かしらの繊維を縫い合わせた服、それと腰には短いナイフのようなものが1つ、それに背中に剣を背負っていた。
背中にある剣は老人が持つには不釣合いなほどかなりの大剣だが、老人はその剣の重さを感じさせないほど軽い足取りで歩いてきた。剣以外は軽装に見える。
「じいさん、あんたいったい何者だ」
「若いのぉ・・・
本当に若いのぉ・・・」
老人は俺の質問に答えず、さらに近づいてきた。
「親はいないのかね。
そうやって生きるしかなかったのかね」
老人の何気ない言葉だが、俺たちの過去を一発で真意を探り当てられ金の冠を盗んだことを見抜いたのではという老人にただならないものを感じた。ひるむ俺とリュック。
「やい!これ以上近づくな。
おまえが何者か知らねぇけれど
これ以上近づくと、老人とはいえタダじゃおかねえぞ」
「お主達にそれができるのかね」
気がついた瞬間、老人の姿は目の前にありいつのまにか俺の首にナイフが突きつけられていた。
「あっ・・・・あっ・・・・」
驚きのあまり俺はうめき声しか出せなかった。それほど目にも留まらぬ速さで、間合いをつめナイフを突きつけられた。老人の動きは「電光石火」という言葉が当てはまった。
「おぉっと、そこの少年も下手な真似はするでないぞい」
リュックが、何かしら魔法を唱えようとしたのだが、それさえも見抜かれていたようだ。
「武器を捨てなされ。
お主達の命をあやめるつもりはござらん」
その言葉をきくと、リュックは魔導師の杖を地面に置いた。
第23話 ロマリアからの追手
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