【第54話】
喧嘩の師匠
新たな仕事が来たため、俺はゼネテスという男と共にノアニールに向かった。
ゼネテスは大剣を担ぎ、俺の前を歩く。ヤツは俺に格闘術を教えた人物でもあるのだが。
「しかしなぁ…何で俺達がカケ落ちした坊やの
探索なんかしなきゃいけねぇんだよなぁ」
ゼネテスは顔をしかめながら、俺に話しかけた。
「親方の命令だから、仕方ないだろう」
年齢は離れているが敬語などは俺達の世界にはない。俺は普通にタメ口で返した。
「どうやら、ノアニールの村長と親方が知りあいらしいからな」
「それは俺も聞いた。だけれど何で俺なんだ?」
きっと、自分みたいな上の人間がなんで人の探索をするんだと言いたいんだろう。
(知るかよ…)
「まぁ、未探索の洞窟があり危険度がわからないから
俺が派遣されたのかもしれねぇが…」
強いのは確かだが、少々自分にうぬぼれがあるのがこいつの欠点だ。まぁ、俺も人のことは言えないし自分に自信がなければこの商売もできないのも確かなのだが。
「報酬がそんなに高いのか?」
「わからん。だがノアニールにいけばわかるだろ」
「そりゃ、そうだが。
ったく、お前は相変わらず愛想がないなぁ…
それが師匠に言う言葉かよ」
「誰が師匠だ」
確かにゼネテスには格闘術を教わったが、師匠とは思っていない。それに格闘術といえば聞こえはいいが悪く言えば喧嘩の仕方である。素手になったときに相手をどうやって殴り倒すかだ。
最初、殴りあいになったのは盗賊仲間で酒を飲んでいたときだ。ヤツが新入りの俺を挑発してきたのがきっかけだった。俺はその挑発にのったが、ことごとく返り打ちになり翌日は顔の形が変わってしまったほどだった。
酒を飲むたびにこいつとは殴りあいの乱闘になった。親方は一行に止める様子もなく、元気が良いと笑って見ていた。しかし俺も殴られっぱなしではなかった。何度もこいつと乱闘になるうちに、こっちも殴り返せるようになりいつのまにか素手による戦いの仕方を身に付けていた。それをきっかけに素手で戦える術を教わるようになった。
そういう意味ではこいつのおかげで格闘術を身に付けたと言えなくはないのだが、犬猿の仲でもあるわけだ。
「無駄話している間にノアニールが見えてきたぜ」
第55話 久々のノアニール
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