【第65話】

旅の知識


レルラを加えた俺達三人は洞窟に着くとそこで一夜を過ごすことにした。

しかし突然怒り出すレルラ。

火を使ったり肉を食べるのが気に入らないようだ。




翌朝、火の後始末をした後俺達は洞窟の中に入ることにした。

洞窟に入るとゼネテスは紙を取り出した。


「何を…するんだ?」


昨日の夜から今日起きて一言も口を聞かなかったレルラが俺に問いかけてきた。


「マッピングをするんだ。

洞窟内の地図を書くってことだな。

この洞窟がどれだけ複雑かわからない。

迷うといけないだろう。

人間は忘れる生き物だ。自分ではこうだと覚えていても間違えてしまうこともある。

洞窟では罠があるかもしれないからな。一つの間違いで命を落とすこともある。

だからこうやって面倒くさくても紙に残しておくのよ」


俺もシャンパーニに住む前、リュックと仕事をしていたころは

近場の洞窟などをあさったものだ。だがその時の俺達はそんなことをしなかった。


しかしシャンパーニの塔で、親方から俺はいろいろなことを叩き込まれた。

情報を収集する為にはいろいろなことを知らなければならない。

自己流の盗賊の技術ではなく、洗練されている技術。


何故必要なのか、最初俺にはわからなかったが、

強くなる秘訣だと親方に言いくるめられ、俺は仕方なく覚えた。


すると、いろいろな仕事で後で役立つことがわかった。

マッピングの必要性もその時親方に教えてもらった。


ゼネテスが言うように後に間違えないように記すものでもあり、

地図に残すことで、別の探索者が見てもわかるようにするためのものでもある。

今回俺達が親方に依頼されたのは、あくまでこの洞窟の探索だ。

別の人間が今後ここに派遣することだって考えられる。


「…君達は旅慣れているんだな」


「まぁ、これが仕事の一つだからな」


レルラにとっては村から出たこともあまりないだろうから

こういう冒険も皆無だろう。


洞窟の中は薄暗く、じめじめしていている。


ゼネデスが松明に火を灯し、先頭を歩く。


「足場が滑りやすいから気をつけろよ」


ゼネテスが注意をよびかける。

黙って俺は肯き、ついていく。

レルラが少し離れたところから歩く。


どうやら松明の火が気に入らないらしい。


「あんまり、離れるなよ。

 暗闇から敵が襲ってきたら反撃ができないぞ」


俺がレルラに注意するが


「心配は無用だ。我らエルフ族は人間と違って夜目が利く。

 暗闇でもわずかな明かりがあればモノが見える」


そう言って、近づこうとしない。


「あっそう…ならいいけど」


自分の身くらいは自分で守るだろう。

俺もそれ以上いうつもりはなかったが

人が心配しているのに、愛想のない奴だ。


「おい、マッピングやってるか?」


ゼネテスがぶっきらぼうに聞いた。


「やってるよ!」


レルラの態度に気に入らない俺はゼネテスに乱暴に答える。


「怒鳴るなよ…まぁ、いい…」


そんなやりとりをしながら洞窟を進んでいくと

下への階段があった。


「階段があるな」


ゼネテスが俺を見た。


「…あぁ」


「階段があるのが、どうかしたのか?」


レルラが尋ねてくる。

俺は機嫌が悪かったので何も答えなかった。


「自然にできた洞窟なら、階段はないだろうが

 明かに何かの手によってできた階段があるということは

 同時に洞窟に何かしらのしかけがあるかもしれないということだ」


何も答えない俺に変わってゼネテスが答える。


「魔物以外にも罠にも気を付けなければいけないってことよ」


「そうなのか…」


レルラは感心したがように、ゼネテスを見る。


「そんなの当たり前のことだっていうの」


俺はレルラに野次をとばした。

言い返してくると思ったが

レルラは何か言おうとして、辞める。

少したって、一言俺に言った。


「…すまない」


予期しない言葉が帰ってきたので、

俺はそっぽを向いた。


しかし素直に謝られたのでなんだか機嫌がよくなってきた。

思い返せば、昔の俺だったらレルラ同様、

そんなことを疑問に思わなかったかもしれない。


盗賊という世界に身を置くことで、普段気が付かなかったことに

気を配るようになったから、そう思っただけのことだ。

旅の知識の違いだろう。


ゼネテスが突然階段付近で座りだした。


「どうした?」


「…かすかだが…足跡のようなものががあるな」


ゼネテスが、片足をついて地面を調べ始める。


洞窟じたいがじめじめしているせいで、以前の足跡も残っていたのだろう。

ただし他の動物か、魔物か、他のモノも通った後らしきものがあり、

人間らしきの足跡には気が付かなかった。


松明をもっていたゼネテスが、一番よく地面を見ていたのだろう。


「アン…達かもしれないな」


レルラもその足跡を見る。


「よし、降りるぞ」


俺達は下の階層に降りていった。


第66話 アンとの再会

前ページ:第64話 「食文化の違い」に戻ります

目次に戻ります

ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります