【第69話】
消えたアン
アンの気持ちがレルラに傾くことはなかった。
それは別にかまわないが、俺達は村長の息子を連れ戻す役目がある。
しかしアンは突然俺達の目の前から姿を消した。
「魔法か!?」
姿を消す魔法は、魔法の中でもとても難しく高位の魔法使いでしか唱えることができないと聞いたことがあるがエルフには容易なことなのだろうか。
それとも、瞬間移動の魔法で別の場所に移動したのだろうか。どちらにしろ、俺達の前からアンは消えてしまった。
「…困ったな…」
一人落ちついた声を出しているのはゼネテスである。
「これからアンを探しても、俺達のことを警戒して
簡単には姿をあらわしてくれないだろ」
そう言うと俺を見る。
「うっ…」
俺のせいか。しかしすぐには妙案が浮かばない。残念ながら魔法の知識は、さっき言った程度のことしかないのでそれ以上はわからないし、洞窟の外に逃げてしまったら探しようがない。
あせった俺の考えをよんでいるのか
「だが、洞窟の外に行ったことは考えにくいな」
そうゼネテスが言う。
「何故?」
「ちょっと考えればわかるだろ、
アンはここで水を汲んでいた。
それはこの洞窟の中で生活しているからだろ?
なら、二人ともこの洞窟にいるはずさ。
仮に洞窟の外に出たとしても、恋人君がこの洞窟にいるだろうから
いずれアンも戻ってくるさ」
確かにゼネテスの言うとおりかもしれない。いつものんびりして、たまに気にくわないこともあり殴りあいの喧嘩もするが、俺はゼネテスが取り乱したことを見たことがない。どんなときでも冷静さをもっているから、親方はゼネテスに信頼を置いているしこの任務を頼んだのだろう。
しかし、ゼネテスは予期しない言葉を発した。
「このまま帰るか」
そうゼネテスが言った。レルラはアンの言葉によっぽどショックなのか一言も話さない。
「この洞窟にいるんなら、探せばよいじゃないか」
俺が噛みつくように言う。
「しかしなぁ、今の感じでは見つけたとしても力づくで連れて帰るしかないし
どっちにしろ連れて帰っても
お互いの親に認められないんじゃなぁ…」
ゼネテスは渋る。
「まぁ、親方も理解してくれるだろ」
気楽にゼネテスは言った。あまりこの仕事に乗り気でなかったのか、そもそも興味が無いのか、アン達の気持ちを尊重しているのか。まぁ、確かに今回の話は盗賊団の仕事とはかけ離れていた内容ではあったのだが。
「とりあえず、この洞窟のマップはあらかた手に入ったわけだし。
ノアニールの村長には何か言い訳を考えなければいけないがな」
当然依頼料はもらえないが、何か納得のいく理由をしなければ俺達、いや組織の名に傷が付つく。
「まぁ、言い訳は俺が考えておくぜ。あぁ…はやく酒が飲みたい」
…これが早く帰りたい理由なのか?
第70話 人脈
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