【第92話】

貧富の差


親方が初めて自分の過去の話をし始めた。

俺が聞きたかった内容だ。


親方はサマンオサの騎士団長をしていて

他国を巡ったそうだ。

エジンベアにいったときに何かあったらしい。




「エジンベアはそれはきれいな国じゃった。

 城には大理石がいたるところに使われ、

 美術品も山のようにあった。

 

 しかしなの国も国民が税を求めるのは一般的じゃ。

 エジンベアは特に税率が高くての」


「貴族が多いからか?」


「それもあるだろうな。

 それとあそこは王がと城に住む大半の貴族が無能じゃ。

 自らの美しさを求めるのが国の方針らしい。 

 それ自身は悪いことではないし、その国の勝手じゃ。


 しかし、一番困るのは誰じゃ?」


俺は少し考える。

税金を払うのは国民。

それは貴族も同じだ。


いや、国政に参加する貴族なら

逆に税金から給料が支払われるはずだ。


そして税金が高い。

一番負担を強いられるのは・・・


「・・・税金を払う貴族、もしくは一般の国民か?」


「そうじゃ。特に一般の国民には大変な負担となる。

 城そのものは大変きれいであった。

 しかし外にあるエジンベアの財形を支えている名も

 ない村のありさまはひどかった。


 一部の貴族が自分の欲望を満たすために

 多くの国民が生活もままらないほど税金を搾取されているのじゃ」


「俺は税金なんて収めたことなかったから

 気にもしなかったが、今思えば俺がロマリアの兵士時代に

 剣術を習えたのも、飯が食えたのも、国民の税金があったからだものなぁ」


俺はロマリア時代のことを思い出した。


「国は国民によって支えられておる。

 しかしそれを忘れてはならぬ」


「親方の言いたいことはわかるぜ」


「だが、ワシがエジンベアの国政に口を出すことはできん。

 サマンオサの騎士団の団長として来ているわけだからな。

 国に迷惑をかけるわけにはいかんからな」


「そうか・・・だから親方は国には属さない盗賊団を作ったんだな」


「そうじゃ。王やサイモンには反対されたがな」


「そりゃ、そうだろうな」


国の外交をすべてまかえていて、引きとめていた人間が

盗賊団をつくり、他人から金を巻き上げる、

ばれりゃ、自国の恥にもなるし、国同士の争いにもなるだろう。


「エジンベアには、満足に教育も受けることができない

 子供達もたくさんおった。

 

 しかし国には頼れない。

 ワシにはそこそこ財産があったが、

 それだけではエジンベアの貧民を救うことは到底できなかった。

 そこでワシは王をなんとか説得し、サマオンサの騎士を辞めた。

 幸い家族も持っていなかったからな。

 サマンオサで老後を暮らす必要もなかった。

 ワシは騎士団を辞めたあと、エジンベアに忍びこみ、美術品を闇市に流し、金に変えた。

 手にいれた金の一部を寄付しながら、信用できる部下を雇い入れた。

 組織を拡大するためにな。

 今までの人脈を使い、国の仕事も手にいれた。

 そしてさらに莫大な金が手に入った。

 それをまた貧しいものに恵んだ。


 エジンベアだけではない。

 貧富の差で苦しんでいる人間はたくさんおる。

 生まれが違うというだけでな。」


よくわかる・・・俺もそうだった。

親もリュックも親がいなく、物心をついていたときには

労働力とみなされ、奴隷のように働かされていた。


人間は皆平等などよく聞くが、実際はそうではない。

生まれたところが悪いだけで、人生の大半が決まることがあるのだ。

そこから抜け出すかどうかは個人の意思の強さだとは思うが。


「国の力ではできることとできないことがある。

 国の力では救えないことがある。

 一個人ではどうにもできないことがある。

 だからワシは自分にしかできない組織を作ったのじゃ」


第93話 消えた村人

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