【第297話】

伝説の神剣の復活


勇者様の為に私は一振りの剣を鍛えた。

しかし私の未熟さの故かそれとも剣の命の器が大きすぎたのか

剣には命が宿らなかった。

そのとき天空から一本の光がオリハルコンの剣に降り注いだ。




私と妻は目をつぶった。

とても正視できる光ではなかった。

言いかえれば剣に雷が落ちたような光の激流だった。


「これは・・・・・・」


「あなた・・・・・」


私は妻を背中にかばった。

光の激竜は止め処も無くいつまでも剣に流れた。

いつ果てるかわからない。

目に見えなくてもそれを感じた。


しかし私は気になった。

いったい目の前で何が起こっているのだ。

私が鍛えた剣に何が起こっているのだ。

私は好奇心に勝てず、恐る恐る目を開けた。


すると、剣に一筋の竜が吸いこまれていた。

ただの光ではない。

光の竜だ。

光の竜がオリハルコンの剣に吸いこまれているのだ。

目の前で起きていることは信じられなかった。

夢かと思った。


だが・・・・・・神々しかった。

美しかった。


光の竜は偉大で力強くて暖かった。


そして、光の大爆発が起きた。

私は目をつぶった。


しばらくして目をあけると

すべての光の竜が飲みこまれたあと

ぼんやりと人の形をした光のシルエットが見えた。

あれは・・・・・・


光に声をかけようとすると、光は跡形もなく消えてしまった。


あとには鞘に収まっている剣が一振りあった。

鞘をまだ作ってなかった。

しかし、私が鍛えた剣はいつのまにか神々しい鞘に収まっていた。

もう昔から剣と鞘は出会う運命だったかのように、

オリハルコンの剣にその鞘は合った。


そして剣からは脈動が感じられた。

あの光の竜がなんだかわからなかったが

私にはわかった。


剣に・・・・・・・・・命が宿ったのだ。




私は空を飛んでいた。


あれほど苦しかった体が裂けそうな力

押しつぶされそうな圧迫感が嘘のようになくなっていた。


私は”竜”だった。


娘よ。

おまえにこれ以上危険をおかさせるわけにはいかない。

大魔王を倒してみせる。


私は咆哮を放った。


たとえ元の姿に戻れずとも、

私がおまえにしてやれるのはこれだけだ。

もう元に戻れぬかもしれぬ。


しかし、私はそれでもこの道を選んだ。

後悔はすまい。

大切な者を守るために。


チェルトよ・・・

不甲斐ない父を許しておくれ。


私は、もう一度吠えた。




私は遠くの空を見つめていた。


「チェルト、どうしたの?」


「ううん・・・・・なんでもない」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「でも・・・・・・チェルト・・・・泣いてるじゃない・・・・」


「・・・・・・・・」


とっても・・・・・悲しかった。

理由はわからなかった。

ただのドラゴンの叫び声。

叫び声がすごく悲しかった。


涙が出た。

なぜ・・・・涙が出るの。

わからない。

何でこんな悲しいの。

涙がとまらないの・・・・

ただ・・・・・・・・・・・・悲しかった。




王者の剣編執筆完了です。


恒例のあとがきです。

まだ王者の剣をうけとっていないのですが、王者の剣編はこれで終わりです。


チェルトは大魔王と対決することになる、

その王者の剣のストーリーが、ロングノベルとなってしまいました。


カンダタという大盗賊の人物の心を変え、

ジパングの鍛冶屋夫婦により剣をきたえられ、

オルテガの魂がこもった伝説の神剣。


剣は道具ではなく、魂がある、

剣と魂が1つになったとき、剣は本来の輝きを戻す、

魂である、オルテガの命を吸い上げ復活した王者の剣。


またオルテガは人の犠牲によって誰かが助かるということを最も嫌っているのですが、

娘の為に竜神の命(魂)をとってまでも、自らが竜になることを選びます。


竜の秘術ドラゴラムを使い、王者の剣に力を与えたのは、竜神つまり竜の女王の霊であり

竜の卵を生み、チェルトに試練をさせ、光の玉を授けたあともチェルト(オルテガ)の力になります。


もともと、ドラゴラムはゲームの方では、魔法使いが使う最上級魔法でしたが、

チェルトの世界では、竜の力という特別な神聖魔法として描いてみました。


そして、王者の剣が、強いというのは

ただ単純に世界一硬い金属のオリハルコンを使ったというわけではなく

いろいろな人の絆によって結ばれた魂の絆の剣であり

それを描くため、第229話~第297話の約70話にも及ぶストーリーになってしまいました。


最後が一番書きにくかったですね。

ラストにオルテガと草薙とチェルトの3つの視点から同時に見るストーリーを書くことは

一番最初から決めていまして、チェルトが、父親のドラゴンの泣き声を聞いて涙するという

このワンシーンを書きたくて、1年以上辛抱しました。

ようやく今日その最後のワンシーンを掲載できて満足感がありますが、でも

ここまで来るのに長かったです。


あと、没シーンが今回1つあります。

このあと、オルテガがドラゴンでメルキドの上空にとび、

メルキドに降り立ったとき、変わり果てたメルキドの姿を見て

メルキド対戦に自分が間に合わなかったこと、

そして、そのあと、傷ついているカンダタと会い、

ここでもチェルトの名を聞くシーンがあったのですがここは没にしてしまいました。


王者の剣の第2部「カンダタ」編で、

カンダタの生死を不明にして、チェルトはそのあとドラゴンロードにむかい、

オルテガが訪れたときに、ぼろぼろで血みどろで包帯だらけで右腕がないカンダタと

人間に戻ったオルテガが会うというシーンも考えていたのです。


ただ、第2部で、カンダタの終わり方をしっかりとつけて

第3部に入るように文章を変えたので、このシーンは没にしました。


王者の剣1つ手にいれるのに、

ここまで長ったらしい文章を書いた人は日本中探してもいないと思いますが(笑)

第1部 カンダタ編、第2部 メルキド編、第3部 オルテガ編

からなる「王者の剣」編、いかがだったでしょうか。

1年半以上かけて書いた大作なので、何度も読み返して、楽しんでいただければと思います。

みなさんからの感想、楽しく読ませていただいております。

メール、掲示板にはすべて目を通していますし

私がチェルトを書く原動力にもなっております。

これからもよろしくお願いいたしますね。

次回から最後の伝説の武具、光の鎧と精霊ルビスの塔の話がスタートします。


第298話 番外編:みなさんからの感想2

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