【第369話】

はぐりんが語るスライムの歴史10


天上界のみんなはボク達を快く迎えてくれた。

ホビットのおじさんは、ボク達に友好の証として

何か作ってくれるとのことだった。




天上界で何ヶ月か過ごしていたとき、ボク達はルビス様に呼び出された。

なんだろうと、ボク達は不思議に思ったが

ルビス様の元に集まった。


「来てくれましたね」


「はい、ルビス様」


ルビス様はいつ見ても綺麗な方だった。

種族が違うけれど美しいことはわかる、

またルビス様は誰にでも優しく、

魔物であるボク達も平等で接してくれた。


「実はあなた達に頼みがありまして、呼びました」


ルビス様のお願いとはいったいなんなんだろうと、

ボク達はお互いの顔を見合わせたが

こんな素敵な世界に連れてきてくれたルビス様のために

何でも頼みは聞くつもりだった。


しかしルビス様はちょっとためらってその先の言葉を言わなかった。


「どうしたのですか、ルビス様?」


「何でも言ってください!」


ルビス様はそれでもためらっていたが、ゆっくりと静かに話し始めた。


「今…下界で良くないことが起きています」

「良くないこと?」


「はい。

あなた達がこの天界に来たときにこの世界の成り立ちを簡単にお教えしましたが

今下界は人間達が、主に生活をしています」

「確か…魔族との戦いで、人間は神側について

その功績が認められて…地上界を与えられたんだっけ…」

ボク達はおぼろげながら、以前ルビス様が教えてくださったことを思い出した。

「そうです、しかし残念なことに人間が増えるにつれてお互いの領土の問題などで

争いが起こるようになりました。

争いが愚かであるかどうか、というのは私にはなんともいえません。

正当なる戦いもあるからです。

しかしその逆もあり、 過去に神々さえも以前過ちをおかし、その多くの命が失われてもいます。

そんな神々が下界を監視するというのもおかしな話かもしれませんが

しかし我々は平和を維持するために、その戦いが本当に正当なものであるかどうかというのを

見極めなければいけません」

「…わかるような気がします」


ボク達に難しい話はよくわからなかったが、

ボク達の先祖も争いで散々苦しんできた。

自分達が外敵から、身を守る為に戦わざるを得なかった状態があったからだ。

戦いが良い悪いかというのは別として、

それが正当なる戦いなのかどうかということをルビス様はおっしゃりたいのだと思う。


「下界には人間だけではなく、いろいろな生物が住んでいます。

あなた達スライム一族もそうですし、草木もそうです。

そういうすべてのものが存在して、世界が成り立っているのです。

頻繁に戦いが起こることから、ミトラ神は本当にこのまま下界を人間達に任せてよいのかという

疑問を持たれています。


 それともう1つ、人間だけでなく下界の闇の力が強まったようです」


「闇の力?」


「はい。それが具体的に何であるのかははっきりわかりません。

 しかし人間とは別に、何かの力が下界を浸食しているようです。

 闇の力が必ずしも、悪いとは言いません。

 あなた方のような優しい心を持つ者も、実は闇の力から生まれているからです」

 

「ボク達も闇の力で生まれたのですか?」


自分達の生まれを意識したことはなかった。

ただ一般的に人間達がボクたちのはるか先祖、スライムを「魔物」と呼び

普通の動植物とは違って、敵意を持っていることだけは知っている。

最もボク達はぐれメタルはまだ下界にはいないので、どちらにも属さないものなのだろうけれど。


「そうです。自然に生をうけたのは確かなのですが、ここまで繁殖し、種族の多様化したのは

泉になんらかの魔力が注がれ最初から知力をもったスライムが生まれたことが理由だと聞いております」

「そうだったのか~!!!」


ボク達は自分達のご先祖様が泉から生まれたということは知っていたけれど

弱いながらもスライム一族が生き延び、反映してきたのは

最初から「言葉」という伝達手段を持ち、知識を持っていたことであり

その知識を持ったスライムが何故生まれたのかまでは知らなかった。


「闇の力でも正しき心を持つ者はいます。

よって下界で何が起こっているのか、それを調べ、見極めるという使命を…ミトラ神はあなた達に託しました。

きっとミトラ神はあなた方なら、物事を平等に判断できる正直さを持っていると思われたからでしょう」

ミトラ神様というのは、確かルビス様や他の神様などを束ねる

一番えらい人のことだったということもボク達は思い出していた。


「…私としては申し訳ない気持ちです。

確かにあなた方なら、この使命を達成することはできるかもしれません。

しかし、せっかく天界に来てもらい、幸せな世界を営んでいたのに

また下界に戻ってもらい、世界を探索させるというのは…」

そういってルビス様は黙った。


ボク達は、うつむいているルビス様を見上げた。

そんな様子を見てボク達はルビス様の心遣いがわかって気分が苦しくなった。


第370話 はぐりんが語るスライムの歴史11

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