【第429話】

弱肉強食


ゾーマから語られる竜神への裏切り。

竜の力をただ利用するだけの為であった。

ゾーマが人間を殺すのは、私達が物を食べるのと同じ行為だと言った。



「確かにあなたが言うように愚かな行いを人間は過去に幾度となくやってきた。

 戦なんて、ほんとそのとおりね。

 でもね、そんな人ばかりじゃない。

 人はただ欲望のままに生きてはいない。

 欲望を満たすために自分の生活を豊かにしようとすることはあるけれど。

 その欲望を満たすために他人に迷惑をかけていいはずはないわ。

 お互いに尊重をし、認め合うからこそ、他人との関係が生まれる。そこに人間は喜びを感じる。

 あなたが作ろうとしている世界は、他人を力で征服し

 自分だけが満足する閉鎖された完全なる弱肉強食の世界。

 弱肉強食の世界自体が悪いとは言えない。そういう考えを持つ人もいると思う。

 自然界の厳しい掟でもあるから。

 でも人間は弱いものを庇いたいという心がある。みんなが平等であればよいと思う。

 それが人間全員の考えといったら違うかもしれないけれど、そこが人間の良いところなの。

 だから神は私達人間を認めてくださったんだわ」

”その神が余には信用できなかった。

 弱いものに地上を与えた。

 我ら魔族のほうが優秀であるのに、力で、能力で劣る人間に神は地上を与えた。

 本来我らが与えられるはずであった土地を人間が手に入れた。

 余は人間を許せなかった。神も許せなかった。

 だから余は神に謀反を起した。そして神をも超える力を身につけ

 すべてを余の手におさめようとしたのだ”

「それはあなたが勝手に思っていることでしょう。

 魔物がみんなそう思っているわけではないわ。

 平和を願う魔物、私は彼に会ってきた。

 彼は平和を望んでいた。人間との共存を望んでいた。

 

 あなたはさっき何故私にその力を使わないのって言ったわね。

 私が目指すもの。

 それは人間が、魔物達が平和で暮らしていけるようなそんな世界を作りたい。

 今の私と彼の願い。

 魔物たちを奴隷のように操り、自分の手足として使い捨てるような奴は放っておくこととができないのよ。

 あなたは恐怖と死で支配を行おうとしている。

 自らに従わないものはすべてに死を与え、絶対の恐怖で服従させる。

 私達人間にとって、そして魔物達にとっても迷惑なことなの」

”魔物にとっても迷惑とは面白いことを言う。

 おまえは余が魔物に恐怖で従わせていると思っているようだが、それは違うぞ。

 余が配下にしたのは知能を与え、力を与え、魔物が持つ本来の心を覚醒させただけ。

 そして人間は食らうためのものと刷りこみをした。

 魔物達は人間を駆逐する力を得て食料を得たのだ。

 人間というゴミをな。

 魔物にとっては飢えを満たす手段を得たのだ。

 歓迎することがあっても迷惑ではない。

 おまえが言うような、人間に心を許す魔物は稀であろう。

 だが、我らは敵対する同士。それが運命。

 魔物と人間の溝は埋めきれるものではない。

 その道は余を倒すことよりも難しいかもしれん”


「…」


その通りかもしれない。

でも…

私は人間と魔物の未来に賭けてみたい。


”それでもおまえは、人間と魔物の共存など世迷言を並べるのか?”


「少なくともあなたを倒せば…魔物達は解放される」


今の私にできることは、これしかない。

ゾーマを倒す。


「いくぞ、大魔王!」


第430話 勇者の挑戦

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