<戦士としてのあいつ>
by オリーブドラブ
(”バトランドの武器屋の少年の視点から見た、
ある王宮戦士のストーリー。DQ?本編第一章の前日談。”)

 

俺が住んでいる小国であるバトランド王国は、強い王宮戦士がたくさんいる事で少し有名だ。
俺の家は、そんな王宮戦士達の為になるような武具防具を販売する事を仕事としている。
まあ、要するに単なる武器屋なのだが。
でも、俺は母国の誇る王宮戦士の大切な手助けが出来る家柄に生まれて来た事を誇りに思っている。
…あいつに会ってからは、その思いはますます強くなっていたんだ。

 

あれは…今から一年前のこと。
俺は家の仕事を手伝い、皮の鎧の素材を採集するために近辺の森林に繰り出していたんだ。
だが、運悪いことにそこで山賊に鉢合わせてしまったんだ。
そして情けないことに、俺は山賊達を恐れて命ごいし、自分の目的をあっさり白状してしまったんだ。
その概要から奴らは俺が武器屋のせがれなんだと踏み、俺を餌に金儲けしようとしやがったんだ。
あの時ばかりは、流石に悔し涙を流したよ。

んで、その後にあいつが現れたんだ。
金属の光沢が眩しい、鉄の鎧を纏うあいつの姿を見た時、俺はひ弱そうなあいつの外見に肩を落としていた。

顔付きから察するに、多分俺より二つくらい年上だろう。見るからに「ひ弱な優男」という印象だ。
あいつは山賊達に縛り上げられている俺に優しく微笑みかけると、山賊達に対して話し合いを持ち掛けた。
当時の俺は全くあいつに期待していなかったし、山賊達も全くあいつの説得に応じなかった。
山賊達はあいつから装備品をぶんどろうと襲い掛かった。

…そして、待っていたのは、俺の想像を遥かに覆す結果だったのだ。
控え目に話し合いを試みていた引っ込み思案な印象とは裏腹に、あいつの剣捌きは目を見張るものがあった。山賊達の斧の猛攻をかい潜り、一人、また一人と、倒していく。
しかも、死なせないために敢えて急所を外しながら。

気が付くと、俺を捕らえていた全ての山賊達は、全員おねんねしてしまっていた。
「大丈夫?」
あいつは俺を縛っていた縄を解くと、少しはにかんだような微笑みを見せた。

そいつがバトランドの王宮戦士の一人・カリンであると知ったのは、それから後の話だった。

俺はあいつに送られ、無事に素材を手に入れて家に帰ることが出来た。
気弱な割にはずば抜けた剣術の持ち主である王宮戦士カリン。
王宮戦士としては奇抜な一例であるあいつという人物に、俺は少なからず興味をそそられた。

それから数日後、カリンと一緒に、城下町をぶらつく約束をあいつに取り付けていた。
待ち合わせ場所の木の下の日影で寛いでいた俺の傍に、あいつは息を切らしながら駆けて来た。
「ごめん、遅くなっちゃった。ライアンさんの剣術指導が長引いちゃってさ…」
「いいさ。ほら、行くぞ。」
俺はあいつの鋼鉄の篭手を掴み、散歩に出た。

…とはいっても立ち寄りたい場所があるわけではなく、ただ単にカリンと話すことだけが目的だったのだが。
何も考えずにあいつを連れて歩いていると、やがて練兵場にたどり着いてしまっていた。
そこでは、バトランド王国屈指の強さを持つ王宮戦士・ライアンが、若い兵士達を指導している様子が伺えた。
ここに来るつもりではなかったのだが、カリンについて話をするにあたっては、絶好の場所と言えた。
俺はカリンの隣に座り込み、あいつについての話を持ち込んだ。
「あのさあ…お前、俺を山賊から助けた時になんでわざわざ説得なんかしようとしたんだ。」
「…えっ?」
カリンはたじろぎながらこちらをみていた。
「ただでさえお前には威圧感が無いんだし、説得したって無駄だと思うけどなあ。」
「う~ん…正直、僕もあまりあてにはしていなかったよ。駄目だろうなとは思っていたけど…ああせずにはいられなかったんだ。」
「なにい?じゃあ何であんな事を?」
俺のその問いに、あいつはすぐさまには応えなかった。
暫く間を置くと、あいつは俺から目を逸らし、戦士ライアンの指導の様子を見つめながら、ゆっくり口を開いた。
「…戦う人達の中にはさ…死を覚悟してまで戦う人もいれば、生き延びるために戦わざるを得ない人もいるんだ…」
「…!」
「だからさ…なんていうか…あの山賊達がもしも、後者の方だったら…ちょっとさ…」
あいつはもじもじしていてはっきりしていない態度だったが、俺は特にそれに憤る事はなかった。
何故なら、あいつという人間を理解出来た気がしたからだ。
「お前…」
「だってさ…あの山賊達だって、多分初めから山賊だったわけじゃないと思うんだ。僕は…そうだとしたら…」
俺はそこで、ようやくカリンという人間を理解することが出来た。
あいつは、「死を覚悟してまで戦う人」の輪の中から、「戦わざるを得なかった人」を守るために、戦っているんだ。
あの山賊達がもし、俺のようなガキを使ってまで金を稼がなければならない程までに貧困だったとしたら…
そう思うと、あの時のあいつの説得を根底から否定するのも難しく思えてくる。
魔物が蔓延る今の世の中には、死を覚悟してまで戦う人もいる。それは別にいい。
しかし、そんな覚悟さえ与えられぬまま生死の境に追いやられる人々の事を思ってみれば、理不尽さも多少なり込み上げてくる。
あいつは、カリンは、そんな不条理を少しでもはねのけようと、たった一人で奔走し、強くなって来た。
それが、戦士としてのあいつなのだ。
「カリン…お前、割といいやつなんだな。」
「えっ!?どうしたの急に?」
あいつはあわてふためきながら俺の心からの敬意にたじろいだ。
俺はその様子を面白がりながら、空を見上げた。

俺は幸せ者だ。

これほど誇り高い王宮戦士が身近にいるのだから…

 

故に俺はカリンと言う人間に触れることで、王宮戦士の力になりうる自分の誇りを深めることが出来たんだ…

そして今、俺は願っている。

今の世の理不尽から、いつか必ず全ての人々が解き放たれる日が来る事を…

 

~The Fin~


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