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【エピローグ】

   世界には平和が戻った。魔物は空からも大地からもめっきり姿を消したという。鳥はさえずり、花は咲き乱れ、人々の顔には笑顔が戻ってきていた。
                    ☆
 セシルはバロンの王に即位した。若く人格的にも優れた国王の誕生に、バロンの民は心から喜んでいた。そしてその国王の妃となる美しい女性は今、数日後に控えた結婚式に着るための衣装選びをしていた。
「ウーン、こっちのほうがいいかな。素材がいいだけに何を着ても似合うよね・・。」
 付き添っているのはニコラである。彼女もぼちぼち適齢期に入る年齢なのだが、結婚相手はなく、ひそかに思っている相手は、彼女のそんな気持ちは無視してどこかに旅にでてしまっていた。そこへニコラの父であるバロン一の飛空挺技師がやってきた。
「な、なんだ?まだ衣装選びなどしておるのか?!」
 シドは、娘に文句を言った。
「親父は黙っていてよ!仮にも王妃様となる人にいいかげんなドレスを着せるわけにはいかないからね!!」
 相変わらずにぎやかな父娘のけんかをいさめる未来のローザ王妃は、おかげでこの日は結局衣装を選ぶことができなかったらしい。
                    ☆
 ダムシアンではギルバートが国王に即位していた。やや病弱ではあったが、優しい人柄と、確かな知識をもった有能な王の出現に、ダムシアンは思いのほか早く復興する兆しが見られた。
 ただこの王は美しい容貌から、女性からの求愛は星の数ほどあったのだが、今をもってなき恋人のことが忘れられないらしく、当分どんな女性とも交際する気はないらしい。しかしこのご時世に、またとない純情な青年王とのことで、人気はますます上がるばかりであった。
                    ☆
 ファブールではヤンが国王に即位していた。真面目で実直な性格のこの国王は、威厳のようなものを早くも身につけていたが、王妃は相変わらず庶民的で、国王は時々それをたしなめることが多かったそうである。
                    ☆
 ミシディアの双子の魔道士、ポロムとパロムは相変わらずであった。いたずら好きで腕白なパロムは、今日も魔法の鍛錬をサボって村の小さな女の子の気を引いていた。あとで双子の姉に見つかっていつものようにポカリと殴られたそうである。
                    ☆
 エブラーナではエッジが国王に即位していた。彼もなかなかの名君であったが、相変わらず家老のサイゾーにお小言を頂戴する毎日であったらしい。
「一体若はいつになったら王としての自覚を持たれるのじゃ?」
「わかっている・・・!!」
 エッジは面倒くさそうに答えた。
「わかっていたらいい加減身を固めていただかないと・・!!」
 エッジはサイゾーの小言は上の空で、翠色の髪をした美女のことを考えていた。
「こっちの世界にはリディアくらいいい女はいないからな・・!!」
 エッジは毎日そうやってぼやいていた。
                    ☆
 一方幻界では次の女王候補としてリディアが挙がっていた。リディアは美人なのと、面倒見の良いことから幼い幻獣達から人気の的であった。
「僕もリディアと同じが良かったよ!!」
 リディアと仲のよい幻獣の子供が、そんなことを言っていた。
「幻獣も人間も何も変わらないよ。大切なのは外見じゃなくて中身よ!!」
 リディアはそう言って笑っていた。
「しかしまたここへ戻ってくるとは思わなかったわい!!」
「本当にうれしいことですけど・・。」
 リディアが戻ってきたことを喜んでいたリヴァイアサンとアスラの夫婦であったが、彼女の中にとある男への思慕の感情が残っていることだけが気がかりであった。
                    ☆
 カイポの村のある家では、孫娘の帰りをずっと待っている老夫婦がいた。
「あの子はもう戻ってこないのだろうか?」
「寂しいですね、おじいさん・・。」
 そんな彼らの所に、手紙が届けられた。イサクはさっそく封を破って読んでみた。
「大好きなお祖父ちゃんと、お祖母ちゃんへ。お元気ですか。私は理由があって、今家に帰ることはできません。でも必ず用事が済んだら、必ず家に帰りますから待っていてください。それじゃ身体にはくれぐれも気をつけてくださいね。ネフティより。」
 手紙の中には腰痛に効果のある薬草と、金の髪飾りが入っていた。それらを手にとってイサクとリベカは抱き合って喜んでいた。
                    ☆
 数日後、セシルとローザの結婚式が執り行われ、各国の王や友人が主賓として呼ばれていた。しかしその中には国王の長年の親友であるカイン・ハイウィンドの姿はなかった。
「よお、君可愛いね!おいらとつきあおうぜ!!」
 パロムはドワーフの王女ルカをナンパしていた。お約束のごとく、すぐさまポロムに耳を引っ張られたパロムであった。
 ヤンの妻ランは、ローザの母マリアやアスラなど主婦たちで集まって井戸端会議をはじめていた。みっともないと、ヤンは妻から離れていた。
 ギルバートは得意の楽器を奏でて皆の気持ちをなごませていた。リディアもそれに耳を傾けうっとりとしていた。それを見たエッジは嫉妬心を抱いてギルバートにつかみかかろうとしかけたが、リディアにとめられ、後でしっかりエッジは怒られていた。
「もう!ギルお兄ちゃんに何てことするのよ!!本当に野蛮ね!!」
「わ、悪リ!!」
 しかし微妙に2人とも顔を赤らめていた。
                    ☆
 純白の花嫁衣裳を身にまとったローザは絵にも描けない美しさだった。セシルはその姿を見て思わず息を飲んだ。
「きれいだよ!王妃様!!」
「まあ、陛下ったら!!」
 2人は皆の前になかなか姿を現さなかった。しびれをきらしたシドが2人を呼びに来た。
「おーい、セシル・・じゃなかった陛下!!みんなが待っているぞ!!それからローザ・・じゃなくて王妃様!!早くその艶姿を見たいとわしの娘が騒いでおるぞ!!全く調子狂う・・!!」
 シドは呼びなれない呼び方に戸惑っているのをセシルとローザは笑った。この時セシルには兄の声が聞こえた。
「セシルよ、私達月の民はまた旅に出ることになった。どうか末永く元気で!!離れていても私達は兄弟だということを忘れないで欲しい!!」
「に、兄さん?!」
 ゴルベーザの声はローザには聞こえなかった。
「どうしたの・・セシル?!」
「今、兄さんの声が聞こえた!!」
                    ☆
 ちょうど時を同じくしてアガルトの天文学者コリオは天空から月が1つなくなっていることに気が付いた。
「つ、月が消えている!!」
 コリオはそして月のあった場所から巨大な青き竜がこの青き星に向かってきているのを望遠鏡で見つけることができた。最初は何かわからず、次に魔物が出現したのかとあわてていたが、その類まれな美しい姿から、神の存在というものを考えさせられた天文学者であった。
                    ☆
 ミシディアの試練の山にて、カインは1人精神の鍛錬のために修行を行っていた。いつもの兜をはずし美しい金髪を風になびかせていた。
「ちょうど、結婚式の最中だな。すまん、まだ俺はお前たち2人を心から祝福することができない。だが、必ず俺は迷いを振り切ってみせる!!」
 カインはその時、月のあった場所から宇宙船が去っていくのが見えた。それがカインにはまるで願いをかなえる流れ星のように見えたのだった・・。

第41話 「最後の戦い」に戻ります
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