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【5、愛する人(前編) 】

 セシルとリディアは、バロンに戻る方法を探すことにした。この砂漠のオアシスの村カイポの人々に色々話を聞いてみた。この前の地震で地形が変わってしまい、歩いてバロンに戻るのは無理である。
「バロンの飛空挺を使えば話は別だが。そういえば、バロンから来たすごい美人の娘さんが、人捜しにこの村にやってきていたが、砂漠で歩き疲れたのか今高熱で倒れているらしい。今はこの村の一番東のイサクの家にいるけど、ちょっと様子を見に行ってやったらどうだい?」
「その人はどうやって来たの?」
「飛空艇で、やたら元気なおっさんが、乗せてきたのだ。おっさんはすぐ行っちまったけどな。」
 リディアは話を聞き、その人に会おうと言い出した。
「その人もしかしたらセシルの知っている人かもしれないよ。会ってみようよ。」
「そうだね、何か知っているかもしれないし・・・。」
 セシルには、すごい美人の娘さんにも、やたら元気なおっさんにも心当たりがあった。もしその娘が自分の思っている娘だったら何としても助けなければならない。
                    ☆
 セシルとリディアが、バロンからきた娘がいるというイサクの家にきてみると、そこには高熱で意識を失ってベッドに寝ているローザがいた。彼女は相変わらず美しかったが、ひどく顔色が悪く時々セシルの名前を呼んでうなされている。
「ローザ!?どうしてこんなことに・・!?」
 セシルは愛しいローザが高熱で苦しんでいることに取り乱した。リディアはローザがセシルにとってとても大切な女性だとすぐにわかった。
「何とか助けられないの?」
 ローザを助けてくれたイサクという老人にリディアが尋ねると、イサクは色々と親切に教えてくれた。
「高熱病を治すには、幻の宝石、砂漠の光が必要じゃ。その宝石はアントリオンという魔物の分泌物じゃが、その魔物はダムシアンの東の洞窟に住んでおるということじゃ。その洞窟は、今は封印されておる。ダムシアンの王族に伝わる竪琴の音色によって封印は解けるらしいが、そこに行くまでに地下水脈を越えねばならん。あそこにおる8本足の魔物は手ごわいぞ。」
 なかなか一筋縄ではいきそうのない話だが、セシルはローザの病を治すためならどんなことでもしたいと思った。ローザがここまで自分を思っていてくれるとは思いもしなかったし、自分がここまで彼女にひかれているとは気がつかなかった。
「ローザ、待っていて。僕が必ず君を助けるよ!!」
 セシルはローザのひたいにそっと口付けした。
                    ☆
 セシルはローザを助けたい一心で、足取りが速くなってしまい、リディアを疲れさせてしまった。しかしリディアは文句一つ言わず、しまいに倒れてしまった。セシルはローザを想うあまりにリディアのことを考えてやらなかったと悔やんだ。
「リディア、ごめん。君にこんな無理をさせてしまって!」
 セシルはリディアをおぶってすすんだ。
「いいよ。あたしのほうこそごめんなさい!」
 セシルは決して無神経な若者ではない。むしろかなり気配りのできる若者である。リディアのことを忘れてしまっていたわけではない。戦闘になるとなるべくリディアを後方にさせて攻撃を受けないように配慮してきたし、移動中もリディアに休もうかと声をかけたりしていた。食事も水などもリディアを優先してきた。しかしリディアのほうが、逆にセシルの気持ちを思いやってセシルに合わせて無理をしてしまったのだ。
「ローザは大切な人でしょ。早く砂漠の光を手にいれなくちゃ。」
「ローザは大切だよ。でもリディアだって大切だよ。」
 セシルは幼いリディアにあまり気を使わせてはいけないと思った。
「あ、ありがとう・・。」
 リディアは改めてセシルの優しさに気づかされた。
                    ☆
 ダムシアンの王子ギルバートは、吟遊詩人としてカイポの村に時々やってきた。そこでアンナという娘と知り合い、恋に落ちた。しかし身分違いの恋というものには必ず弊害があるもので、父であるダムシアン王は、二人の恋愛を認めなかった。そうでなくてもギルバートが時期国王となるにはあまりにも頼りなさ過ぎると、普段から心配していた。
「お前にはしかるべき家の娘を妃とする。どこの馬の骨ともわからぬ者との恋愛など認めるわけにはいかない。」
 ところで、この恋愛に反対だったのはギルバートの父親だけではなかった。アンナの父テラもこの恋愛に大反対で、しかもアンナから詳しく話を聞きもしないでダメだと決め付けていた。
「お前はたぶらかされているのだ!そんな男との付き合いなど断じて認めぬ!!」
 テラは、ギルバートの父親以上にすごい剣幕で反対した。もっともテラがこの結婚に反対したのはギルバートが信用できないからだけではなかった。テラがアンナを過剰に心配しているためで、ようするに親バカであった。
                    ☆
 アンナはテラとケンカし、家を飛び出してしまった。いつもギルバートと待ち合わせしているオアシスまでやってくると、ギルバートがいつものように歌っていた。いつもなら彼の歌声を聞けば気持ちがなごむところだが、アンナはプンプンと怒ってギルバートにテラの様子を話した。
「お父さんがあんな分からず屋とは思わなかったわ!!」
 ギルバートは歌うのをやめ、アンナの話を黙ってきいていたが、いつまでも彼女が怒っていると、優しくそれをたしなめた。
「そんなこと言ってはいけないよ。父親としては可愛い娘をそんな簡単にはやれないものだよ。それだけアンナのことを思ってくれているってことだよ。」
 ギルバートは優しい。王子だというのに少しも奢った所がなく、いつも穏やかである。アンナはそんなギルバートがとても愛しいが、時々それを歯がゆく思うことがある。
「あんなお父さんのことをかばうことないわ。こうなったらギルバートのお父様から説得しましょう!私、カイポの村から出るわ!!」
アンナは素直で可憐な女性だが、言い出したらきかない頑固な面がある。ギルバートはやれやれと思いながらそんな彼女をよりいっそう愛しく思い、ダムシアンの城に行って父を説得することを決意した。
                    ☆
 かつては大賢者の名を望むままにしてきたテラだったが、今では親バカの普通の老人である。
「アンナのやつ、このわしの気持ちも知らずに・・。あの親不孝者!!」
 年をとってからできた子供は可愛いというが、テラの場合はまさにそれである。そうでなくとも、男親にとって娘というものはひどくいとおしいものである。ましてやアンナは年老いてからできた娘で、そのいとおしさは娘を持つ世間一般の父親以上である。それにミシディアで孤独な修行を続けてきたテラにとって、家族というものはかけがえのないものだった。
 かつて、テラはミシディアで黒魔法と白魔法の両方を極めた。魔道国家ミシディアの人間は、魔力に優れた者が多かったが、それでもどちらかの魔法しか身につけることはできなかったし、それさえ極めるのは決して簡単なことではない。しかしテラは若い頃からどちらの魔法にも長けていて両方を極めるために厳しい修行をつんでいた。そしてテラは究極の黒魔法メテオ以外は習得し、大賢者として褒め称えられていた。
 しかし50歳をすぎてからのテラは、ただ魔法を極めるためだけに生きてきた自分の人生をむなしく感じるようになった。そしてテラは隠居し、このカイポの村で余生を楽しもうとして知り合ったのが、この村の踊り子であったアンナの母であった。彼女はアンナを産んですぐ他界してしまったが、テラは男手一つでアンナを育てあげたのだ。
                    ☆
 そのアンナが、まるで女のようになよなよした吟遊詩人と結婚したいなどと言ってきた時は、普段物分りがいい父親とは思えないほど取り乱し、思わず手を挙げてしまった。
「そんな聞き分けのない娘はわしの娘ではない!出て行け!!」
 アンナはそれに対して何も言わず、しかし目に涙をいっぱいためて飛び出していった。しばらくは怒りのあまり彼女がいないことも気にならなかったが、いつまでたっても帰ってこないので、心配になって村中を探していると、村人たちが吟遊詩人と一緒にダムシアンに向かったということだった。
                    ☆
 テラは再び憤り、ダムシアンに行くために、地下水脈につながる洞窟にやってきた。
「しかし、この地下水脈を一人で進むのはつらい。年はとりたくないものだ。」
テラも70をすぎ、足腰も弱ってきているし、何よりも魔法をほとんど忘れてしまっている。若い頃ならば、どうということもなかった道だが、歳には勝てぬと彼は自嘲気味に一休みしていた。
「ん?あれは・・。」
 何者かの気配がする。魔物かもしれないとテラは身構えた。現れたのは人間だった。しかし、テラはそのなりを見て、かえって警戒心を強めた。
「悪名高いバロンの暗黒騎士か?いったいこんな所へ何しに来たのだ?」
 テラはセシルを胡散臭そうな目で見た。暗黒騎士とは暗黒剣を使う心まで闇に染まった騎士であるとテラもよく知っている。テラが警戒するのは当然の反応といえる。しかしテラは後ろの幼い女の子に目を奪われた。
「おお、この子は召喚士か!?ものすごい力を秘めておる。純血の召喚士とは珍しい!!」
 セシルはテラを見ると、会釈して名乗った。
「僕はセシル。仲間が高熱病で倒れたために、これからアントリオンの巣へ行く途中なのです。この子はミストのリディア。バロンに命を狙われています。」
「よろしく、おじいちゃん。」
 セシルはまだ若く穏やかそうである。リディアは子供らしい可愛い笑みを浮かべている。テラは二人の様子を見て物腰をやわらげて名乗った。
「わしはテラ。娘が悪い男にたぶらかされてダムシアンに行ったのを連れ戻す所だ!!」
 セシルはその名前に聞き覚えがあった。
「テラ?もしやあなたは賢者として有名なあのテラでは!?」
 テラはそれを聞き、気恥ずかしそうに笑った。
「今はただのもうろくした老人じゃ。」
 それを聞くとセシルとリディアも笑った。こうして3人は一緒にダムシアンにむかうことになった。
                    ☆
 三人は地下水脈の途中で、テントを張って休むことにした。セシルはともかく幼いリディアと老体のテラにとって、入り組んだ道を進むのはかなり体力を消耗する。それに二人とも魔道士タイプなので、魔力を回復しなければならない。
「セシル、テラおじいちゃん、お休みなさい!」
 リディアは二人に夜の挨拶をすますと、よほど疲れていたのかすぐ横になってねむってしまった。
「よほど疲れて折ったのじゃのう。それにしても可愛い顔して寝ておる。娘のアンナの小さい頃を思い出すわい。」
 テラは、リディアのなつきようから、セシルが実は心優しい若者であるとわかった。しかし、そんなセシルが、どうして暗黒騎士などになったのかと不思議がった。セシルはバロンのことや、リディアと知り合ったいきさつなどをテラに話した。テラはリディアがまだ幼いのに信じられないほどつらい思いをしてきたことを不憫に思った。そしてセシルに暗黒剣など捨てたほうが良いと話した。
「わしのいたミシディアに試練の山がある。もし機会があれば試練を受けてみるが良い。暗黒の力を浄化することができるかもしれん。」
「そうですね・・。僕もいつまでもこのままでいいとは思わないけれど・・。」
 セシルはその山が本当に存在するのなら、いつか登ってみたいとは思った。しかしその前にローザのことが心配であった。朝になったらすぐにでも出発しなければ、とセシルは愛しい女性のことを思ってなかなか眠れなかった。
                     ☆
 一方くだんの暗黒騎士に連れられて、カインはゾットの塔という空中に浮いた要塞の塔にやってきていた。
ここに部下のバルバリシアがいた。背の高いグラマラスで妖艶な美女である。特に床までつくほどの長い金髪が美しい。
「ご苦労様です。ゴルベーザ様。」
「地上の様子に変わったことはないか?」
 ゴルベーザは彼女に監視の役割を与えている。見た目は髪が長いこととその美しさ以外、ごく一般の人間の女性となんら変わりない姿をしているが、彼女はバルキリーという風妖の一種である。風妖には主にシルフという種族がいるが、おとなしくか細いシルフと違い、バルキリーは好戦的で残忍で、しかしその美しさゆえに戦乙女と呼ばれている。
「ダムシアンに火のクリスタルがありますが、あの国にはたいした武力はありません。問題はファブールとエブラーナです。特にエブラーナは強敵です。ルビカンテにあの国が落とせるでしょうか?」
 バルバリシアの話を聞き、ゴルベーザはカインに前に出てくるように行った。
「これから私はダムシアンへ向かう。その前に、新しい仲間を紹介しよう。」
 ゴルベーザがこういうと、カインは騎士らしく片膝をついた。
「俺は竜騎士カイン。ゴルベーザ様の命令でクリスタルを集めるよう仰せつかった。以後、お見知りおきを・・。」
 バルバリシアはカインを見て興味を示した。背の高い容姿端麗の若い竜騎士。セシルに比べると、骨ばって鋭い印象を受けるが、なかなか男前だとバロンの若い娘たちにも評判だった。
「なかなかいい男だね。アタシはバルバリシア。これでも風のバルバリシアって呼ばれている四天王の一人だよ。」
 バルバリシアは長く豊かな金髪に手をやりながらカインにウィンクしてみせた。しかしカインは大して興味を示さなかった。ゴルベーザは笑った。
「この男には他に好きな女がいる。モーションをかけても無駄だ!!」
「わ、私は別に・・!」
 バルバリシアは、ゴルベーザの手前あわてて取り繕った。四天王の中で唯一女性である彼女は、ある意味一番人間くさい性格をしていた。しかしそれでも、実力やゴルベーザに対する忠義心は確かで、ゴルベーザもそのことはしっかりと評価していた。彼女に監視という重要な役割を与えたのもそれゆえである。
「まあ、それでも仲良くやっていこう。仮にも仲間だからな。」
 カインはどことなくこの女性が、幼馴染のニコラに似ていると思い、親近感を覚えた。二人はとりあえず友情の証として握手をかわした。
                    ☆
 セシルたちはようやく長い地下水脈の出口にたどり着いた。しかしここからが本当に大変である。ここにオクトマンモスという巨大なタコのモンスターが住み着いているのだ。オクトマンモスを倒さない限り、この地下水脈から抜けることはできない。
「お、大きい!」
 リディアはオクトマンモスの大きさに驚きながらも、ひるまずに魔法を唱える構えをとった。まだ幼いのに芯の強い女の子だ。セシルは彼女に感心し、すぐ指示を出した。
「水にすむモンスターはたいてい雷が苦手だ。リディア、サンダーを!!」
 リディアは言われた通りにサンダーを唱えた。思ったとおりかなり効果が会ったようで、オクトマンモスは足を一本引っ込めた。それを見たテラはサンダーよりも強い雷魔法サンダラを唱えた。そしてセシルの暗黒剣をくらうと、オクトマンモスはますます弱っていく。それを何度か繰り返すうちにオクトマンモスは力尽きて沈んでいった。
「やった!!これでダムシアンに行けるよ。リディアとテラのおかげだ。ありがとう!!」
 テラは首を振った。
「いや、礼には及ばない。わしとてダムシアンに行く用事もあることだしのう。むしろ礼を言わねばならないのはわしのほうじゃ。」
 テラはアンナのことが何よりも気がかりなようである。
「良かった、役に立てて!!」
 リディアはセシルにほめられてうれしそうだった。彼らはこれからダムシアンでどんなことが起きるのか知る由もなかった。
                    ☆
 ギルバートとアンナはダムシアンの王と王妃に何とか許しをもらった。王はなかなか首を縦に振らなかったが、王妃は、ギルバートがこんなに強く望んでいることや、二人が真剣に愛し合っているようだからと、王をとりなした。その結果ようやく二人の恋愛が認められたのだった。
「ああ、良かった!これであのお父さんだけだわ。」
「一生懸命説得すればきっと許してくれる。なんだかそんな気がしてきたよ。」
 二人は一つの壁を乗り越えたことで、胸がいっぱいになっていた。
「私、今とても幸せよ。愛しているわ、ギルバート!!」
「僕も!!」
 二人の間に甘い一時が訪れた。二人を祝福するギルバートの両親も、二人が幸せそうなので、交際を許して良かったと思い始めていた。しかしそれは本当に短い時間だった。
「ギルバート、あれは何!?」
 バロンの「赤い翼」がこっちへ向ってやって来た。先頭には背の高い暗黒騎士がいた。
                    ☆
その男は不気味な笑い声をあげていた。
「クリスタルは渡せぬ!あれはむやみに持ち出すこと自体禁じられているはずだ!!」
 ダムシアン王が反論すると、ゴルベーザは部下たちに命令した。
「ならばやむを得まい。皆の者、位置について砲撃の準備をせよ!」
 ダムシアンの城はたちまち空からの襲撃にあった。王と王妃はギルバートの目の前で命を落とした。あまりのことに、ギルバートは逃げることも忘れて取り乱してしまった。
「父上、母上、・・そんな!?」
 アンナは数本の矢がギルバートめがけて飛んでくるのを見た。
「危ない!!」
 アンナはとっさにギルバートをかばった。ギルバートは何が起こったのかすぐには理解できなかった。彼自身も致命傷ではないが、かなり負傷していた。
「アンナ?」
「ギルバート、大丈夫!?」
「?!」
 ギルバートは我に返って、アンナが自分をかばって瀕死の状態であるとわかった。ギルバートはアンナの矢を抜き、毒を吸い出した。だが、アンナが良くなる様子はなかった。
「ギルバート、竪琴を聞かせて!!」
 自分はもう助からないと、アンナは思ったが、ギルバートにそれは言わなかった。死ぬ前に彼の竪琴の音色を一度でいいから聴きたい。そう思った。
「こんな時にそんな・・?」
「お願い、ギルバート。私なら、大丈夫だから。あなたの竪琴の音色が、私を元気にしてくれるから!!」
 ギルバートはアンナに言われるままに竪琴を奏でた。その音色が城中に響き渡った。
                    ☆
 セシルたち3人が、ダムシアンの城に入る目前に、城が襲撃された。廃墟となった城に3人は入っていった。
「ひどい!!」
 リディアはおびただしい数の死傷者を見て震えだした。セシルは生きている負傷者を助け起こした。だが、彼も助かりそうにない。
「上に王子がいる。助けて欲しい!!」
彼はこう言って息を引き取った。
「アンナ、アンナはどこにおる?!」
 テラが半狂乱になって叫ぶのを、セシルたちはなだめながら上にすすんだ。ふと美しい竪琴の音色が聞こえてきた。魂をゆさぶるようなもの悲しい旋律。こんな音色を出せる者ならば、きっと心の美しい者だろうと、セシルもリディアも思った。だが、これを聞いたテラはかえって怒り出した。
「ぬっ!ここに奴がいるのか?!よくもわしの娘をたぶらかしおって!!」
 テラはいつもの温厚な様子はみじんもなく、階段を駆け登っていく。セシルたちも後を追っていった。
                    ☆
 テラは吟遊詩人を見つけると、つかみかからんばかりであった。セシルが相手を見た所、セシルよりも小柄で線の細い、女性のように優美な顔立ちの青年で、その仕草には気品すら感じられる。とても女をたぶらかすような性悪な男には見えなかった。
「どうか話を聞いて下さい!」
 テラに責められてもギルバートは優しくテラをなだめるように接していた。
「お願い、二人ともやめて!!」
 若い女性の声がテラの怒りを静めた。ギルバートは横になっている恋人のそばに駆け寄る。
「アンナ!しゃべっちゃダメだ。身体に障るよ!!」
「おお!アンナ!!」
 テラもアンナを見つけて側に駆け寄った。アンナはもう息も絶え絶えだった。それでも彼女は力を振り絞って愛する父に語りかけた。
「お父さん、この人はこのダムシアンの王子ギルバート。彼は身分を隠してカイポの村に来ていて私と知り合ったの。ギルバートの両親にも交際を認めてもらったから、お父さんにも許しをもらいに行こうとしていたのに・・。」
「父も母も僕の目の前で、ゴルベーザと言う暗黒騎士に殺されました。アンナも僕をかばってこんな傷を・・。」
「お父さん、ギルバート、愛しているわ!二人とも私の分まで生きて!!」
 アンナはこういって息をひきとった。ギルバートは号泣した。テラも当然悲しかったが、
それよりも怒りで顔をこわばらせていた。
「男のくせに何という女々しい奴よ・・。なぜアンナはこんな男にここまで惚れてしまったのじゃ!?」
「アンナ、大丈夫って言ったじゃないか!?僕を一人にしないで!!」
 ギルバートはテラに侮辱されたことなど気にもとめず、アンナにすがって泣き続ける。
あまりの情けなさにテラは、ギルバートを責める気も失せてしまった。
「テラ、あなたはこれからどこへ?!」
 セシルはテラがどこかへ行こうとしているのに気がついた。
「アンナの仇をとりにいく。セシル、リディアよ、達者で・・。」
 テラはそう言ってダムシアンから去っていった。
「それにしてもゴルベーザって何者だ?」
 先日までセシルが指揮していた赤い翼飛空艇部隊だが、見たことも聞いたこともない名前である。それに自分以上に暗黒剣を極めた者などバロンにはいなかったはずである。それに赤い翼を指揮できる者がいたことも驚いたし、ダムシアンに対してここまで残酷なやり方で襲撃したことが何よりもショックだった。

第5話 「愛する人(後編)」に行きます
第4話 「謎の美少女」に戻ります
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