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【11、土のクリスタル】

  セシル、ヤン、テラ、シドの4人は、女性国家トロイアにやってきた。クリスタルが残っているのはもうこの国だけだと彼らは思った。トロイアの上空まで来た時、赤い翼の火空艇がエンタープライズ号に近づいてきた。
「おい、迎撃するか!」
「いや、ちょっと待った!!」
 よく見ると先頭の飛空艇にカインが乗っていて大きな白旗を振っていた。
「攻撃をしにきたわけではない!交渉をしにきたのだ!!」
「カイン、貴様!!」
 いきり立つシドをヤンとテラは羽交い絞めにして抑えた。ローザを人質に捕られているのだ。うかつに刺激してはならない。
「セシル、1人でこっちに来い!お前と一対一で話をしたい!!」
 セシルは警戒しながらカインの前に立った。
「カイン、ローザは無事だろうな?」
「もちろんだ!実はそのことで交渉にきたのだ。」
 カインはローザを返すかわりにトロイアにある土のクリスタルを持ってくるようセシルに言った。
「土のクリスタルとローザを交換する!!どんな方法でクリスタルを手に入れてもかまわん。」
「約束は守ってくれるだろうな?」
「とにかく土のクリスタルを手に入れて来い!また来る!!」
 カイン達はひとまずトロイアの上空から去って行った。
「これは罠かもしれんぞ!!奴らがローザを本当に返すと思うのか!?」
 シドは怒りまくって言った。
「わかっているよ。自分たちの手を汚さずにクリスタルを手に入れるための罠だってね。だけど、ローザを助ける糸口になるかもしれない。」
 セシルはトロイアに行って土のクリスタルを渡すよう説得してみようと城に入っていった。
                    ☆
 トロイアは女性ばかりの国である。シドは女達を見回して品定めをしていた。テラがいい年をしてみっともないと言うと、シドは思いっきり言い返す。
「やかましい!お前と一緒にするな、くそジジイ!!」
 テラは、情けないことだとため息をついたが、シドの性格をよくわかってきたので、それ以上何も言わなかった。シドを除いた生真面目な3人は、情報収集のために余計なことは考えずに女官たちに話を聞き込んでいた。

 女官の一人が気になることを言っていた。
 最近吟遊詩人らしい青年が浜辺に流れ着いていた所を、女官たちが助けたらしい。青年は、どこかの国の王子と言っているらしいが、あまり豪華な服装ではないので疑わしい。それはともかく、彼は今重病で臥せっているとのことだった。
 セシルはその吟遊詩人に心当たりがあったので、女官にお願いして会ってみることにした。 
                    ☆
 セシル達が思った通り、重病人の吟遊詩人とはギルバートのことだった。ギルバートは、セシルとテラを見ると、自分も起き上がろうとして看護者達に止められた。
「ギルバート様、寝てなければいけません!!」
「ゆっくり寝てなんかいられない!僕もセシルやテラさんと一緒に・・。」
 セシルとヤンはギルバートを寝かせた。
「こんな身体で無理しちゃダメだ!!」
「そうだ!今は病を治すことだけ考えられよ!!」
 ギルバートは身体の弱い自分をふがいなく思っているようだった。テラはそんなギルバートに冷たく突き放すように言った。
「そんな病人に付いてこられても迷惑なだけじゃ!!ただでさえたいした戦力にならんというのに・・。」
「テラさん・・。」
 ギルバートは懐から何か薬草のようなものを取り出した。
「これを・・。これは『ひそひ草』と言って、音を遠くまで伝えることのできる物です・・。お守り代わりに持っていってもらえませんか?今の僕には何もできませんが、せめて気持ちだけでも・・。」
「いらんわい!そんなもの何の役に立つというのじゃ!?」
 テラは拒否的だった。アンナが命を落としたのはゴルベーザのせいであるが、彼がもっと強い男であれば死ぬことはなかったのにと、内心彼を憎んでいた。もっともそれが八つ当たりであることに、聡明な彼は気付いていて、さすがに口にはしなかった。
「くそジジイ、人の好意に対して何という言い草だ!?」
 見かねてシドがテラにつかみかかろうとしたのを、他でもないギルバートが止めた。
「良いのです。テラさんが僕を快く思っていないのは当然ですから・・。」
 セシルはギルバートの気持ちを汲んでひそひ草を手にとった。
「これはありがたく受け取らせてもらうよ!君はここで僕らが戻ってくるのを待っていてくれるね?」
 ギルバートはセシルのとりなしに感謝し、おとなしくベッドの上で彼らの健闘をいのることにした。
                    ☆
 セシルたちはトロイアの6人の女神官に事情を話し、クリスタルを貸し出してほしいと頼んだ。しかしクリスタルはここにはなく、磁力の洞窟に住むダークエルフに強奪されてしまったとのことである。
「とにかくダークエルフから土のクリスタルを取り戻して下さい。話はそれからです。」
 磁力の洞窟とは、金属を吸い寄せる力のあるやっかいな洞窟で、しかも飛空挺から行くことのできない所である。場所はトロイアの北東にあるが、海峡に挟まれていて船でもいけないし、水の苦手なチョコボも当然無理である。
「北に黒いチョコボが住む森があります。黒チョコボなら空を飛ぶことができるので、もしかしたら・・。」
 セシル達はさっそく黒チョコボをつかまえに北の森へ行った。
                    ☆
 黒チョコボに乗って磁力の洞窟にやってきたセシル達だが、新たな難問にぶつかった。
洞窟内の磁力が強力で、金属製の武器、防具がその影響を受けてしまい、モンスターと出会った場合でも戦うことができないのだった。
「困ったものだ。仕方がないから金属製の武器ははずすしかない・・。」
「でもこんなことでダークエルフと戦えるのだろうか?」
 セシルとシドの戦力がここでは役に立たないようだった。
「さいわい私の武器は磁力の影響を受けておらぬ。私の格闘とテラ殿の魔法で何とか進むことにいたそう。」
 ヤンはそう言って自らが先頭に立って洞窟の奥へと進んだ。
                    ☆
 ヤンとテラのおかげでどうにか洞窟の奥に進むことのできたセシル達だが、ダークエルフの攻撃に苦しむことになった。
「ヒッヒッヒ、愚カナ奴ラダ!ソンナ装備デコノ私ト戦ウトハ!!」
 エルフとは光の属性を持った美しい容姿を持つ種族である。しかしそんなエルフが邪悪な心を持ち、暗黒の力に染まると、その美しさは失われ、醜悪なダークエルフとなる。本来ならセシルの聖剣攻撃が最も適した攻撃方法なのだが、この中では金属製の武器は使えない。伝説の剣とていくらか鉄を含んでいる。
「クソッ!こいつはかなり強敵だ。」
「わしのホーリーもあまり効いておらん・・。どういうわけじゃ!?」
 頼みの綱であったヤンとテラがこの有様である。
「ナラバ私ノ攻撃ヲ受ケテミヨ!!」
 ダークエルフは4人に強力な攻撃をしかけてきた。4人は、万事休すと思った。
「僕の力が何の役にもたたないなんて!!」
「クソ!武器さえ使えれば!!」
「無念じゃ・・!!」
「こんな所で負けてしまうとは・・。」
 4人とももはや立つこともままならない状態だった。しかしあきらめに入っていたセシルの耳に奇跡の声が聞こえた。
「あきらめないで!!」
 その声はギルバートから渡されたひそひ草から聞こえてきた。
                    ☆
「皆が戦っている!!僕にできることをやらなくては!!」
 ギルバートに彼らの声が届いていた。彼らの窮地を助けられるのは、ギルバートしかいなかった。ギルバートは本来立つこともままならない状態であったが、立ち上がって竪琴を取りに歩き始めた。看護士と医師はすぐに止めに入った。
「ギルバート様、寝てなくてはなりません!」
「あなたは病気なのですよ!元々あまり丈夫ではありませんのに!!」
 ギルバートはさすがに竪琴の置いてある場所までは行けない様子である。
「ど、どうか竪琴を・・。仲間が戦っているのです!!」
 ギルバートの必死の様子に看護士と医師は心を動かされた。医師は竪琴をギルバートに渡し、看護士はギルバートを支えた。
「あきらめないで!!僕がダークエルフを弱らせている間に武器を!!」
 ギルバートの声が皆に届いた。続いて美しいメロディが流れる。繊細なギルバートらしい音色だが、聴いているものには力と元気を与えられるようなそんなメロディだった。
「グッ!ナンダコノ不快ナ音ハ?!耳ザワリナ!!」
 ダークエルフは、ギルバートの竪琴の音色を聴き、動けずにいる。セシルやシドは整備を整えた。
「よし!これで戦える!!」
「あの優男、意外にやるじゃないか!!」
「帰ったら礼をいわねば!!」
「アンナが何ゆえあの男を好きになったかやっとわかったぞ!!」
 誰もがギルバートの思いもよらぬ勇気に驚き、感謝した。ダークエルフはダークドラゴンに姿を変えて対抗してきたが、ギルバートの勇気を分けてもらった4人にとって敵ではなかった。セシルの聖剣攻撃が炸裂する。
「ググググ、コンナハズデハ・・!!」
 ダークドラゴンは弱点である聖剣の攻撃に耐えられずに息絶えた。
                    ☆
 クリスタルを手に入れた4人は真っ先にギルバートに会いに行った。
「見直したぞ!!アンナはおぬしのような勇気ある男に愛されて幸せ者じゃ!!早く病が良くなるようにゆっくり休むがよい。アンナの仇はわしが討つ。仇をとることができたら、一緒にアンナの墓参りに行こう!!」
 テラはギルバートをまるで息子のように思って、ただ病気が良くなることを願った。そして病気で動けない彼のためにもアンナの仇をとらねばと、胸に闘志を秘めていた。
「テラさん、約束ですよ!!必ず生きて帰ってきてください!!」
 ギルバートは、テラが娘を思うあまりに無茶を仕出かさないか心配だった。とにかく無事に帰ってくることを祈り続けるしかなかった。
「ギルバート、君の勇気は確かに見せてもらったよ。あとはゆっくり休んで身体を治すのだ。テラのことは僕たちに任せて・・。」
「セシル、頼んだよ・・。」
 ギルバートはやっと安心して目を閉じた。
                    ☆
 セシル達は、ひとまずトロイアの神官に、ダークエルフからクリスタルを奪還したことを報告した。神官達は、セシル達の働きを認め、クリスタルを貸すことをどうにか承知してくれた。そして4人がトロイアの城門までやってきた時、いつからいたのか、カインが待ち伏せしていた。
「セシル、どうやら土のクリスタルを手に入れたようだな?」
「カイン、約束どおりだ!ローザを返してもらおう!!」
「その前に土のクリスタルを渡せ!」
 セシルがカインにクリスタルを渡すのを躊躇していると、どこからか風が吹いてきて、クリスタルを持っていってしまった。
「確かに土のクリスタル!カイン、塔に戻るよ!!」
長い金髪に肌もあらわな美女バルバリシアだった。
「セシル、すぐ飛空艇に乗ってゾットの塔に来い!ローザがそこで待っている!!」
 カインはこう言い残してバルバリシアと共に消えていった。

第12話 「ゾットの塔」に行きます
第10話 「バロンへ」に戻ります
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