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【17、幼友達】

 セシル達はバロンに戻る前に、ファブールへ行ってヤンの妻、ランに夫のことを報告した。気丈なランは、態度をくずさなかったが、目は確かにうるんでいた。
「いやだ、目にホコリが・・・。」
「ランさん・・・。」
「言いにくいことを良く話してくれたね。ありがとう。」
 ランはショックを受けながらも、明るく笑ってセシル達に礼を言った。本当なら自分たちが責められてもおかしくないのに、笑顔で礼まで述べるランに、セシル達はそれ以上何と言って声をかけていいのかわからなかった。
                    ☆
 次に、彼らはバロンのシドの家に向かった。ニコラにシドのことを話したが、ニコラは表面的にはそんなに落ち込んではいなかった。
「皆、何を辛気臭い顔しているのさ?うちの親父はダイナマイトや落下位で死ぬようなタマじゃないさ!!」
 ニコラはむしろ明るく振舞っていた。しかしセシル達はニコラがやはり心の底では心配でたまらないのだと気づいていた。だてに十数年もつきあってはいない。しかし初対面のリディアは気が付かなかった。
「良かったね、ローザ!ニコラさん、そんなにショックじゃないみたい。ニコラさんがあんな風にしているから、あたしもおじちゃんが無事でいるような気がしてきた。」
 リディアは外見的にはほぼローザと同じくらいに見えるが、心のほうはまだ子供の部分が大きく、人間の心の奥底まで見通すことはできなかった。しかしそのほうが周りにとっては救いであった。
「う、うん。」
 ローザはリディアに特に余計なことは言わず、早く寝るように促した。
                    ☆
 リディアがすっかり眠ってしまったあと、ニコラは酒の用意をしていた。セシル、カイン、ローザも飲みはじめたが、酒が進んでテンションがあがっているのはニコラだけであった。
「本当にもう!皆ちゃんと飲もうよ!!せっかく皆が帰ってきて楽しく飲もうとしているのにさ・・!!」
「ニコラ、飲み過ぎだ!!」
 カインがニコラから杯を取り上げた。
「ちょっと!何をするのさ!!」
「本当はすごくショックだろう!無理をするな!!」
 ニコラがどんなに明るくて前向きな性格だとしても、肉親の身にあんなことがあって動揺しないわけがない。ニコラは泣き崩れだした。
「年だから無理しないようにいつも言っているのに!!ちっともアタシの言うことを聞かないから・・。」
「そうだ、思ったことを口にしろ!やせ我慢しているあんたなんか見ていても、つらいだけだ。」
 カインの胸の中で、ニコラは思いっきり泣いた。カインにとって彼女は姉のような存在である。そのニコラがカインに甘えたのは、これが初めてのことだった。
                    ☆
 カインは泣きつかれたニコラをベッドに運ぶと、彼女のことはローザに任せてセシルと2人きりで飲みなおすことにした。ヤンのことといい、シドのことといい、立て続けに戦友があんなことになったので、気がめいって眠れそうにない。
「カイン、本当にシドもヤンも助からなかったと思うのか?」
 セシルはニコラが無理していたことに気づいていたが、あのまま気づかぬふりをしていたほうが良かったのではないかと思った。
「あのヤンにあのシドのことだからめったなことでくたばるようなタマじゃないさ。しかし俺だって確信は持てないからな・・。」
「じゃ、どうしてニコラを泣かせるようなことを?」
「ニコラはちょっと気張りすぎているから、ちょっと胸につかえている物を吐かせただけだ。明日になればケロっとしているだろう。ニコラはああいう女だ。」
 カインもセシルと同じように気づかぬふりをしていようと、はじめは思っていた。しかし、あまりにもニコラがカラ元気で強がっているので、耐えられなかったのだ。
 セシルはカインの言うようにニコラのことは心配いらないだろうと思った。シドのことは、心底では心配しているが、同時に生きて帰ってくることを信じている。ニコラは明るくて芯の強い女性である。
「カイン、ニコラのことなんだけど・・・。」
 ニコラが実はカインが好きだということを、セシルは話そうかどうか迷った。しかしカインは、そのことには気づいていて、セシルが何も言う前に、自分から話を切り出した。
「ニコラの気持ちはわかっていた。だが俺はお前には悪いと思うが、まだローザのことが好きだ。もちろんローザに振り向いてもらおうとか、お前からローザをさらおうなんて考えてはいない。しかし・・。」
 カインは淡々と話しているが、実はとても言いにくいことを話していた。
「俺はまだ心のどこかに引っかかっている部分がある。お前とローザを心から祝福したいと思っているのだが。お前には本当にすまないと思う。」
 セシルはそれを聞き、首をふった。カインの気持ちはよくわかっている。ずっと幼い頃からいっしょにいた友達でもあり、同様にバロンに育てられた兄弟であり、同じ女性を愛したライバルなのだから。
「あやまるのは僕のほうさ。お前にはつらい思いばかりさせていたのに、ちっとも気づいてあげられなかった。だからこそお前が早くローザのことをふっきって、お前のことをこんなに思っていてくれる女性の存在に気づいて欲しかった。でも余計なことをいったみたいだね。」
 セシルも自分の気持ちをうまく話せずに困ってしまった。カインはセシルらしいと笑った。
「お前は何も悪くない。俺はとにかくお前たちを心から祝福できるようになれば、新しい恋をする気にはなれん。ニコラには悪いが。」
「ニコラはわかってくれているよ。彼女は強くてああ見えてもけなげな女性だから。」
 セシルは早く2人が恋をして幸せになれる日が来ればいいと思った。
                   ☆
 次の日、ニコラはいつものように明るく振舞っていた。セシルはほっとして、バロンにいるシドの弟子たちの所に行った。
 エンタープライズ号には、弟子たちの手によってフックが取り付けられた。シドに前々から言われていたらしい。
「これでホバー船を引き上げることができますよ。親方に、『このままではエブラーナの忍者の生き残りと渡りがつけられない』とか・・。忍者の隠れ里の洞窟には飛空挺を着地させるスペースはないのですが、ホバー船なら大丈夫でしょう。」
「エブラーナの忍者の生き残りって?どうして彼らに会う必要があるんだ?!」
 シドがエブラーナの家老サイゾー・キサラギと知り合いだということは、セシルもカインも知っている。しかしなぜ彼らに会う必要があるのか。そもそも彼らが今どこで何をしているか、セシルたちは知らない。弟子たちは説明した。
                    ☆
 エブラーナはゴルベーザ四天王の1人、ルビカンテの攻撃によって落城した。国王と王妃は殺害され、精鋭の忍者部隊は倒されたが、王子と何人かの忍者は生き延びて西の洞窟に逃げ込んでいるとのことだった。そして何の因果かこの洞窟とバブイルの塔はつながってしまい、サイゾーは敵の様子を探っていた。そして時々シドに情報を送ってくれているとのことだった。
「サイゾー殿の話によると、バブイルの塔の最上階にクリスタルが集められているらしいです。あと1つで全てのクリスタルがそろってしまうそうですよ。」
 次の目的地はエブラーナの洞窟である。そこからバブイルの塔に入ってクリスタルを全て取り戻さなければならない。セシルたちはまずホバー船を引き上げ、そこからエブラーナに向かった。

第18話 「エブラーナの王子」
第16話 「戦友」に戻ります
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