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【18、エブラーナの王子】

 エブラーナの第一王子エドワード・ジェラルダインは本名を名乗ることはなく、いつもエッジと略して名乗っていた。このほうが自分らしいというだけで、別に自分が王子であることを自慢していたわけでもなければ、身分を隠したかったというわけでもない。
 彼にとって王子として生まれたことは特別気にすることではなかった。彼は自分の好きなように生きれば良いと思っていた。もちろん立場上、自分は王になるという自覚はしていたが、家老のサイゾーのいうような理想の君主になるつもりはない。ましてや、部下に恐れられるような暴君になるのは、もっと嫌であった。
「俺は、俺流にエブラーナの民の幸せを守る。それだけだ。」
 彼はサイゾーや父に説教されるたびにこう言っていた。サイゾーはエッジに何かと手を焼かされていたが、内心では彼のお目付け役を楽しんでいる所もあった。何だかんだ言っていても、エッジには人をひきつける魅力もあるし、愛嬌もある。民からも親しまれている。
「若様って男前だよね。なんかキリッとして野性的!!」
「正義感強いし、優しい所もあるし・・。」
「男らしいわ。頼れる男って感じ!!」
 エブラーナの若い娘たちは、こう言ってエッジをもてはやした。しかしこれはお世辞などではなく、本心であり事実だった。娘たちの間だけでなく、子供たちにも若者の間でも、評価は違うが、好感を持たれている。
「おいら大きくなったら若様みたいな強い忍者になりたい!!」
「かっこいいな。忍術だけでなく、剣術もすごいよ!!」
「若様が王様になったら楽しい国になるだろうな。」
「あの明るさがいい!こっちまで元気になれるから!!」
 これらも事実である。つまりエッジは、長所だけを見ていれば、とてもいい奴だということである。もちろんいい奴には違いないが、どんな人間にも長所と短所があるように、エッジにも短所がかなりある。
                    ☆
 まず1つは、王子のくせに口が悪く、作法などもなっていないことだった。食事の時、エブラーナでは箸というものを使うが、エッジは行儀が悪いことにすぐ手を使い、おまけに食べ方もあまり上品とは言えない。
 次に思ったことをストレートに口にしてしまうことである。逆に言えば、彼が正直でサッパリとした性格ということなのだが、時にそれは最悪の結果を招いてしまう。エッジはぼちぼち結婚を考えなければならない年齢なので、昨年に見合いをしたのだが、彼の正直さがわざわいして破談になったということがあった。エッジの両親や、サイゾーが、後の尻拭いにかなり頭を痛めたらしい。
 それからエッジが男なのだからこれも仕方がないことだが、かなり女好きである所である。エッジは時々町できれいな女の子に出会うと、ナンパしていたりする。彼が王子でなければそんなに問題はなかったのであるが、トロイアからやってきた若い女性神官をナンパしたために、国交にかかわるスキャンダルとなりかけたこともあった。
 上の3つはまだ仕方がない奴だと笑っていられるが、最も周りが迷惑したのは、彼がとても熱しやすい性格であることだった。頭に血が上ったエッジは、周りのことや先のことが見えなくなり、かなり無茶をしでかす。これは彼自身の周囲の命にかかわることもあるので、サイゾーはこの点に対してだけは、真剣に心配した。ことにエッジの両親がルビカンテに殺された時の彼の怒りは、すさまじいものだった。2人はエッジをかばってやられてしまったのである。
「てめえ!よくも!!」
 エッジは怒りのあまりルビカンテに火遁をあびせた。弱い魔物なら一発で黒焦げになると言われる火の忍術である。しかしゴルベーザ四天王最強といわれ、また「火のルビカンテ」と異名をとるこの男には通用しなかった。
「いい度胸だが、お前は私の敵ではない!もっと力をつけるがよい!!」
 ルビカンテは赤いマントをひるがえして、去っていった。すでにエッジはかなり負傷していた。
「クソッ!逃がしてたまるか!!」
 深追いしようとするエッジを、サイゾーは他の部下と共に羽交い絞めにして、退却の命令を下す。
「若、ここはひとまず逃げますぞ!!」
「放せ、じい!!」
 エッジが抵抗するのもかまわず、サイゾーは城の地下の抜け道から逃走した。目の前で主君が殺されたことでサイゾーとて死の覚悟で戦いたいと思ったし、ルビカンテを憎いと思う。けれどここはエッジを守るために逃げるべきだと、サイゾーは判断を下したのだった。エッジはそれからしばらくサイゾーに恨み言を言っていたが、サイゾーは自分の判断は間違ってないと自分に言い聞かせて耐えていた。
                    ☆
 エブラーナの惨劇から数ヶ月たち、エッジはすっかり傷が癒えて、元気を取り戻していた。しばらくはサイゾーに対して怒っていたエッジだが、今では心から感謝している。
「じい、世話をかけてすまなかったな。じいが止めてくれなければ、俺までやられる所だったぜ!!」
 エッジは短気で浅はかな所があるが、落ち着いている時はそんなに無分別ではない。それに意外と根は素直な男であった。サイゾーはホッとした。エッジのことだからわかってくれるとは思っていたけれど、事が事だけに切腹を命じられることまで覚悟していたのだった。
 エッジはサイゾーの言うとおりに国の建て直しをするのが先決だと思い、しばらくは食料の調達などに力を注いでいたが、自分たちが逃げ込んだ洞窟の先に、親の仇であるルビカンテがいると知り、両親や同胞の仇討ちを考えはじめた。
「敵はこの先のバブイルの塔にいる!俺達で奴をぶった斬るぜ!!」
 こうしてエッジは血気盛んな若者を連れて、洞窟の奥へと進んでいった。
                    ☆
 一方、セシル達はエンタープライズ号でエブラーナの城までやってきて、浅瀬からホバー船でエブラーナの洞窟に向かった。エブラーナの忍者の生き残りは、この洞窟の2階に隠れ住んでいた。サイゾーは、セシル達がやってきたことを歓迎してくれたが、何やらひどく悩んでいるようだった。
「どうしたのです?クリスタルなら僕たちが取り戻しますよ!!」
「いや・・そのことではなく・・。」
 サイゾーは、ほんの少し前にエッジが何人かの若者を連れて洞窟の奥に向かったことを話した。この先にはかなり強いモンスターもいるし、何よりも四天王最強のルビカンテがいるが、サイゾーはエッジがルビカンテと刺し違えてまで戦おうと無茶をしないか心配であった。
「若が口は悪いし、向こう見ずな所があるが、本当はお優しい方じゃ。命を懸けてまで亡き殿や奥方の仇をとろうとするであろう。そんなことより若が無事でいてくれるほうが大切なのじゃが・・。」
 サイゾーは心配でたまらない様子である。主君を案じる部下というよりも、孫の心配をする祖父という感じである。
「僕たちもルビカンテと戦うことになるでしょう。クリスタルを取り戻すには、四天王との戦いはさけられない。」
「ほう・・。ならば若のことを頼みますぞ!ろくなものはないが、宝物は好きなだけ持っていくがよい。」
 セシル達はサイゾーに礼を言い、宝物をありがたく頂くと洞窟の奥へと進んでいった。
                    ☆
 洞窟の奥に少し進んだ所で、数名の忍者の若者が倒れていた。セシル達が抱き起こすと、彼らは今の自分たちのことよりも、王子のことを心配していた。
「若様は熱くなると、先のことを考えられなくなるのです。」
「どうか若様を・・。」
 セシルは彼らにケアルをかけてやった。
「君たちは皆のいる所へ戻ってくれ。若様のことは僕達が何とかする。」
 忍者の若者達はセシルに礼を言って元来た道を戻って行った。
                    ☆
 セシル達がさらに奥に進むと、赤いマントの大柄な男と黒装束の男が争っていた。
「やっと会えたな、ルビカンテ!ここで会ったが貴様の不運だ!!」
「ほう、エブラーナの王子エッジとか言ったな。身体のほうはもう大丈夫なようだな。」
「ケッ、てめえに心配なんかされたかねえ!親父とお袋の仇だ!!勝負しろ!!」
 エッジは術の構えをとる。彼は火遁を唱えた。熱血のエッジにとって、この忍術はいかにも自分らしくて好きなのだ。以前この火遁でルビカンテが火傷一つ負わなかったことをエッジは忘れていたわけではない。しかしあの時はたまたま効果がなかっただけだと彼はルビカンテを侮っていたのだった。ルビカンテは苦笑すら浮かべていた。
「この程度の炎で得意になるなど笑止千万。私が真の炎の威力を見せてやろう!!」
 ルビカンテが「火のルビカンテ」と異名をとるのには、理由がある。彼は炎の魔法を使わせたら右に出るもののいないと言われる程の炎使いである。その彼に火遁など効果があるはずがなかった。
 ルビカンテはエッジに対して火の最高魔法であるファイガを唱えた。エッジの身体が炎に包まれる。彼の火遁の威力もかなりのものだが、このファイガはその数倍の威力がある。エッジはたちまち動けなくなっていた。むしろ命があるだけでもたいしたものである。体力のない者がルビカンテのファイガを受けていたら、たちまち灰と化していたであろう。
「ち、ちくしょう・・!!」
「私はこの塔の上にいる。逃げも隠れもせぬ。いつでも相手になってやろう!!」
 ルビカンテはそう言ってゆうゆうと立ち去った。
                    ☆
 残されたエッジは、ルビカンテの後を追おうとはしたものの、数歩で倒れてしまった。
「クソッ!情けねえ!!」
 セシル達はエッジに駈け寄った。リディアはエッジの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫?!」
 エッジは美しい娘に心配されて少し面食らった。こんな緑色の髪は見たことがない。肌は真珠色に輝き、緑色の大きなつぶらな瞳はまるでジェイドといわれる高価なヒスイのようである。紅をさしていないのに、唇はしっとりとして桃色珊瑚のように可憐である。まだ幼さはかすかに残るものの、これ程美しい娘はエブラーナにはいなかった。
「君みたいな可愛い子ちゃんにそんなこと言われるなんてなあ。しかしあいにくと、俺は君の相手をしている暇はねえんだ!!ルビカンテを倒したら、ゆっくりと口説かせてもらうぜ!!」
「そんなことを言っている場合か?その傷でルビカンテと戦って勝算があるとでもおもっているのか?!」
 カインはエッジの無謀さにあきれてしまった。負けん気の強いエッジはカインをにらんで言い返した。
「俺の忍術と剣技はエブラーナ一だ!俺をただの甘ちゃん王子だと思ったら大間違いだぞ!!」
 これほどの傷を負っているのに、エッジはするどい顔つきでこう言い切った。エッジは元々いわゆる東洋顔で、りりしくて精悍な顔立ちをしていたが、にらむと切れ長の目がさらに険しくなってきつい顔つきになる。同じ王子でもギルバートとは全く違うとセシルは思った。
「どんなに君が強くてもそんな身体で戦っても命を落とすだけだ!!」
「かまうものか!奴と刺し違えても俺は親の仇をとるつもりだ!!」
 エッジは完全に頭に血がのぼってしまっていた。リディアはエッジの言葉を聞き、さまざまな人の顔が目に浮かんだ。娘を殺された憎しみにより、仇をとろうと無理をした老賢者テラ。砲台を壊すために自らを犠牲にしたヤン。ダイナマイトを抱えて飛び降りたシド。そして召喚したドラゴンが倒されたことにより、命を落とした母の姿が浮かんだ。
「ダメ・・これ以上誰も死んではダメ・・!!テラのおじいちゃんも、・・シドのおじちゃんも・・ヤンも・・お母さんも・・。あたし皆好きだったのに、皆死んでいった・・!!もう嫌!!これ以上誰かが死んでいくのを見たくない!!」
 リディアの無垢な瞳から、大粒の涙がポトポトと流れ落ちる。さすがのエッジもこれにはすっかり困惑してしまった。リディアの言っている内容は理解できなかったが、彼女が自分のせいで泣いていることは、よくわかる。若い娘を泣かせて平気でいられるほどエッジはヤボではない。
「わかったよ!わかったからもう泣くなって!!」
「それじゃ僕らと一緒に戦うって約束するかい?」
「こんなきれいなねえちゃんに泣かれちゃしょうがねえ。ここはおめえらと一緒に手を組むか!!」
 エッジは身体の痛みをおして立ち上がった。
「さあてと、俺が仲間になるからにはルビカンテなんてイチコロさ!!」
 見るからにカラ元気である。セシルは何となく、パロムやシドに似ていると思った。カインは見かねて、ローザに白魔法をかけてやるよう耳打ちした。ローザはエッジにケアルラをかけてやった。エッジはたちまち元気になった。もっとも白魔法の力だけでなく、リディアに負けず劣らずの美女に手当てしてもらったせいかもしれない。
「サンキュー!あんたも美人だぜ!!」
 すっかり元気になったエッジはさらに調子に乗ってしまった。
「さあて、仲良く敵陣に乗り込んで、ルビカンテをぶっ殺すぜ!!それから、クリスタルをかっぱらう。そうすりゃ全て万々歳ってわけだ!ハハハハハ!!」
 エッジのあまりの能天気ぶりにあきれ果て、リディアは泣くのをやめて、ため息をついていた。
「何なの?この調子のよさ・・?!」
 とにかくセシル達はエッジを加えて5人となり、バブイルの塔に向かった。

第19話 「炎のルビカンテ」
第17話 「幼な友達」に戻ります
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