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【24、鍛冶職人ククロ】

   セシル達はシルフの洞窟をあとにして、ドワーフの城に戻った。アダマン島でもらったこの変った金属で強い武器が作れると聞いた。鍛冶の得意なドワーフ達ならできるかもしれないと思ったのである。
 ルカはリディアとネフティに会えて喜んでいた。ローザも彼女たちの中に加わって仲良くおしゃべりをしていた。
「全く女って気楽でいいよな。」
 エッジは遠目で彼女たち、特にリディアのことを見ていた。
「うらやましいなら君もあの中に入れてもらったらいいよ。」
「アホか!この俺に女やガキの中に入っておしゃべりする趣味はねえよ。さっさと武器屋に行ってこいつを武器に変えてもらおうぜ!!」
 エッジは顔を赤くして彼女たちからそっぽをむいてしまった。セシルは思わず笑ってしまう。エッジはセシルよりも年上で女性の扱いにも慣れているはずなのに、本当に好きな女性に対してはかなりうぶであることがなんとなくおかしい。
「いつになったらリディアに告白するのだろう?」
 セシルはリディアを見た後、愛しい女性のほうを見た。リディアはきれいだし、ルカは愛らしいし、ネフティも美少女だけれど、やはりローザが一番美しいとセシルは思った。エッジの目にはリディアが一番美しく見えるのだろうか。
「おい、何をニヤついている?気持ち悪い野郎だな!」
「い、いや。何でもないよ。」
「ならさっさと行くぞ!このムッツリスケベ野郎!!」
 2人は彼女たちから離れて武器屋にむかった。
                    ☆
 セシル達は武器屋のドワーフにアダマンタイトを見せた所、武器屋の主人は珍しい金属だと驚いていたが、これは自分には扱えないと言い出した。
「これはうちでは無理ラリ。ククロならもしかしたら?」
「ククロ?その人はどこに?」
「この城の南の辺境の地に奴の家があるラリ。そこへ行くラリ!」
 話によると少し偏屈な老人とのことだった。セシル達はそこに向かう前にシドの容態を見に救護室に立ち寄った。
                    ☆
 救護室にはローザやリディア、ネフティ、ルカもやってきていて、シドは彼女たちに一所懸命なにやら話し込んでいた。
「俺は若い頃はものすごい男前で女にモテモテだったぞ!!」
 シドは彼女たちが反論もせずに黙って聞いているのをいいことに、あることないことホラを吹きまくっている。エッジは思わず突っ込みを入れてしまった。
「今じゃただのもうろくジジイだけどな!」
「何だとこの青二才!!お前なんかにまだまだ負けんぞ!!」
 2人はまたけんかをはじめた。
「もう、またおじちゃんを怒らせて!!」
「シドさんも落ち着いてください!!」
 あわててリディアとネフティは2人をなだめたが、当の2人は彼女たちの心配をよそに大声で笑い出した。
「全くお前がいないと張り合いがなくてつまらん!」
「じいさん、元気そうで良かったぜ!」
 どうやらシドとエッジの間には男同士の友情のようなものが芽生えていたらしい。リディアは本気で心配していたのがバカらしくなってきた。
「何なの?この人たち・・。」
「心配する必要はない・・ですね・・。」
 リディアもネフティも困惑しながらも心配は要らないと安堵した。
                    ☆
 セシル達はドワーフの城の武器屋に進められたとおり、南の辺境の地にあるククロの家を訪ねた。ククロは噂どおり偏屈な老人で、わしはもう武器を作らないと言い張っていた。
「人殺しの道具など作って何になるというのじゃ?!とっとと帰れ!!」
「そんなこと言わないでお願いします!!」
 いくらセシルが頼んでも無駄だった。気の短いエッジは思わずアダマンタイトをククロに投げた。もちろん手加減して彼に当てないようにはしたが。
「全く血気にはやった若造よ。だから武器を作りたくないのじゃ!こんな石ころなど投げおって!!」
 ククロはそう言ってぶつぶつと文句を言いながらアダマンタイトの塊を拾い上げたが、ふと彼の動きが止まった。
「ん?これはもしや!!」
 ククロの目が輝きだした。それはまぎれもなく職人の目であった。
「伝説の鉱物アダマンタイトか!」
「この金属で強力な武器ができると聞きました。僕達はゴルベーザという者と戦っています。あの男を倒すためにも強力な武器が必要なのです!!」
 ククロはセシルの真剣なまなざしを見て少し考え込んだ。次にセシルの持っている伝説の剣に目を留めた。
「むう!これは!!」
 ククロはセシルからその剣を取ってますます真剣な目つきとなってその刃に魅入っていた。輝きは鈍っているが、確かに普通の剣にはない清浄な光を放っている。
「古びた剣じゃが、これは確かにわしが鍛えたもの。暗黒の力によって呪われておったというにこれを聖なる剣に変えたというのか?!しかしこの剣を鍛えればもっとすごい聖剣となる。そのアダマンタイトで剣を作るとなると、ちと量が足りなすぎる。しかしこの剣を鍛えるには充分な量じゃ。」
 ククロは先ほどの時とはうってかわって生気に満ちた顔つきとなって言った。
「おい、じいさん!さっきまでとは全然態度が違うぞ?!」
「この男なら大丈夫じゃ。わしは今まで剣を作ってきたが、その剣によって多くの命が奪われていくのを見て、剣を作るのがすっかり嫌になっておったのじゃ。しかしおぬしのためなら剣を鍛えてやっても良いぞ!!」
 それを聞き、今度はセシルが目を輝かせた。
「本当ですか?ぜひお願いします!!」
「ふむ。まことに気持ちのよい若者じゃ!しかしかなり時間がかかるぞ。」
「わかりました。ぜひお願いします。」
 セシルは慇懃に礼を述べていた。エッジやローザも良かったと喜んでいたが、ネフティはなぜか少し悩んでいた。
「どうしたの、ネフティ?」
 リディアは真っ先に彼女の様子に気付いて尋ねた。
「ククロさんの言う意味わかるような気がする。自分の作った剣で人の命が奪われていくのが嫌だという気持ちよくわかるのです。私は今皆さんと一緒に戦っているけれどこれって間違っているのかって・・。」
 ネフティは美しい顔を曇らせて言った。それに対して真っ先に答えたのもリディアだった。
「ネフティ、この戦いはこの星の皆の戦いなの!あたしはもっと強くなりたいっていつも思う。もう誰も死なせたくないから。もう誰にもお母さんや村の人、テラのおじいちゃんみたいな目にあって欲しくない!もちろんあなたにも!!」
 リディアはネフティが好きである。もちろん他のメンバーや幻獣達も同じくらい好きだが、彼女はリディアにとって、いまやお互いに胸のうちを何でも話せる大親友となっていた。2人は育ち方も性格も全く違うけれど、そのせいか、かえってお互い自分にない部分にひきつけられたのかもしれない。
「だからあなたも一緒に戦って!あたし達あなたを本当に必要としているから!!」
 リディアの緑色の瞳とネフティの紅い瞳が合った。どちらの瞳も色こそ違うけれど、宝石のように輝き、一点の曇りもない。彼女たちの共通点の一つは、その瞳の示すように、無垢な心を持っていることとお互いに信じあい思いやっていることであろう。
 リディアを見ていると、ネフティは自分のしていることに間違いはないと思えてくる。
「そうね!よくわからないけど、あなたがそう言うなら私も戦う!リディアやセシルさん、ローザさん、エッジさん、カイポのおじいちゃんやおばあちゃん、そしてこの星に生きている皆のために・・。私皆が好きだから・・。」
 ネフティはリヴァイアサンが別れ際に言った言葉を思い出した。リディアの力になりたければ、幻獣神に会うがよい、とリヴァイアサンは言っていたが、一体あれはどういう意味だったのだろう。そして幻獣神とは一体どこにいるのだろう。
「わからない!でも私は幻獣神に会わなくちゃ!!」
 ネフティはなぜかそれが自分の宿命のような気がした。
「皆良い目をしておるのう!久しぶりに良い人間に出会えたわい。さあ忙しくなるぞ!!」
 ククロは弟子にそうささやいてさっそく仕事に取り掛かっていた。

第25話 「恋心」
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