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【36、闇の幻獣神】

   セシル達はさらに先に進んでいた。現在の場所は地下渓谷の6階である。しかし入り組んでいるので一度階段を登らなければならない。
「あれ、あそこにいるのはさっきの白竜か?!」
「まだ何かいる!!」
「あ、あれは・・!!」
  白竜と一緒にいるのはバハムートかと一瞬思えた。しかしどこか雰囲気が違う。セシル達は急いだ。
                     ☆
  バハムートらしき巨竜は、白竜に対し、威圧的で冷たい声で怒鳴っていた。
「敵を倒さずに我が前に現れるとはどういうつもりだ?白竜よ!!」
「ダークバハムート様、私はもうゼムスに従うことはできません。」
「くだらぬ感情など持ちおって、この役立たずが。その愚かしさは己の死を以って償うがよい!!」
  ダークバハムートはすさまじい勢いで息を吐いた。白竜はたちまちのうちに、消滅してしまった。わずかな残骸だけが、むごたらしく残っていた。
  かけつけたセシル達は驚きと怒りの目でダークバハムートを見た。間近で見てみると、確かにその形態はバハムートそっくりだったが、その身体からにじみ出る気はとてつもなく邪悪であった。身体の色もバハムートは美しい藍色をしているが、ダークバハムートは闇に染まってどす黒い色をしている。
「現れたか、虫けらども!我が息の威力見たであろう!あの老いぼれの幻獣神の息など取るに足らぬ!!もっとも奴ももう寿命!かわってこのダークバハムート様が新しく幻獣神となろう。」
「用済みとなったら殺すなんてひどい!!あなたには優しさとか愛というものはあるの?」
  リディアは死んだ白竜のことを思い、怒りの目でダークバハムートを見る。ダークバハムートはそれを聞いてあざ笑うかのように言った。
「そんなくだらぬ感情は持ち合わせてはおらん。私は下等な貴様ら人間とは違うのだ。もっともあの愚かな幻獣神はその下等な人間などに心を奪われておったが・・。」
  話を聞けば聞くほど、セシル達は腹が立ってきた。白竜を情け容赦なく殺した冷酷さ、先の幻獣神に対する侮辱、人間を下等と見下す傲慢さ、どれ一つとっても許せない。
「幻獣神の言ったとおりだ!立場や血筋なんて愛の前にはチリに等しい。愚かなのはそれがわからない貴様のほうだ!!」
  この5人の中で一番クールだと思われるカインがジャンプしてダークバハムートに飛びかかっていった。ローザはすかさず、エッジにリフレクをかけた。ダークバハムートは許せないが、その実力だけは確かである。あの息を身体に受けたらひとたまりもない。続いてエッジが白竜からもらった妖刀ムラサメで斬りかかった。思ったとおりかなりの切れ味である。
「うぬぬ、こしゃくな!!」
  大ダメージを与えるまでには至らなかったが、ダークバハムートはその痛みに顔をゆがめている。その間にセシルがエクスカリバーで攻撃した。幻獣神よりもかなり聖剣での攻撃が有効なようである。かなり大きな傷ができた。
「さあ、今度はあたしの番!」
  召喚魔法を唱えかけたリディアをローザは制止した。
「リディア、待って!今のうちに光のカーテンを使って。全員リフレク状態になってから幻獣を召喚して!!」
「わかったわ。」
  リディアは光のカーテンを使った。同じようにセシル、ローザ、カインも光のカーテンを使った。皆がリフレク状態になっているのを確かめてからリディアは召喚魔法を唱えた。
その様子を見たダークバハムートはリディアをあざ笑った。
「フハハハハ!このダークバハムート様は闇の幻獣神!どんな幻獣を呼び出そうともこの私にかなうものか。貴様らも我が息の味を試してみるか?」
  ダークバハムートは先ほど白竜に対して吐いたメガフレアの息よりもさらに強力な息を吐き出した。それがリディア達に襲いかかって、一気に大爆発となるはずであった。しかしその光の息ははねかえってダークバハムートを直撃した。
「ウグググ!こしゃくな真似をしてくれる!!しかし私はこんな程度では倒れぬぞ!!」
  まだしぶとくダークバハムートは生きていた。さすがに闇の幻獣神を名乗るだけのことはあるようだった。
「いかに貴様らが強かろうと、神であるこの私にかなうはずはないのだ!!愚かな虫けらどもに神が倒されるはずはないであろう!!」
  ダークバハムートはなおもリディア達を見くびっていてまだ召喚獣が現れていないことに気付いていない。リディアは必死に呪文を詠唱した。
「偉大なる幻獣の神バハムートよ、汝が主リディアの前にてこの愚かなる者に天罰を!!」
  リディアの声と共に本物の幻獣神バハムートが現れた。偽者とは違い、身体は鮮やかな藍色で、神々しいばかりに光り輝いている。バハムートは闇の幻獣神に脅威のメガフレアの息を吹きかけた。その威力はダークバハムートのそれよりもはるかに強く、その身体を鋭く貫いていった。
「そんな馬鹿な!奴はもう寿命だったはず。幻獣神になる力を持っていたのはこのダークバハムートのみ・・!!」
「愛をあざ笑うあなたなどに幻獣神になる資格はありません!!」
「そ、その声はあの半竜の小娘か?!」
  ダークバハムートは真の幻獣神の声を聞き、断末魔の声をあげて消えていった。
「本当に強い者とは、弱者に対して愛を示します。ダークバハムート、あなたが弱き者に対する愛を知っていたならば真の幻獣神となることもできたでしょうに・・!!」
  慈愛と憂いに満ちた優しい少女の声で、バハムートはそう言い残して飛び立っていった。
その声は決して大きいものではなかったけれど、確かにセシル達の胸に響いていた。
                     ☆
  先程までダークバハムートのいた場所に、エクスカリバーよりもさらに強い輝きを放っている聖剣が落ちていた。
「我が名はラグナロク!神の力によって生まれた物!!」
「け、剣がしゃべった!!」
  セシルが驚いていると、ラグナロクのほうからセシルの手のひらの中に入ってきた。そしてそれっきり話さなくなった。
「真の武器は持つ者を選ぶという話を聞いたことがある。ムラサメといい、ラグナロクといい、何かの意思というか魂が宿っているのかも知れない!」
「そうかもしれない。ちょっと構えてみよう!」
  セシルはラグナロクを構えてみた。セシルの身体がすさまじいほど光り輝いた。
「すごい!」
「こうなると、聖剣というより神剣かもしれないな。」
  セシルはそう言って自分の腰にラグナロクを装備した。もちろん今まで使っていたエクスカリバーも大切に持っていた。これとて確かに魂のこもった名剣である。
「しかしうれしいねえ。これから強敵と戦わなきゃならないって時にこんな強い武器が手に入るなんて!!」
「そうだね!!」
  セシル達は新たに強い武器ラグナロクを手に入れて、さらに地下へと進んでいった。まだまだ先は長そうであった。

第37話 「死へ誘う者」
第35話 「哀愁の白竜」に戻ります
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