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FINAL FANTASYⅣ-恋い焦がれる異国の王-<第五話>


「ご苦労さん!」
エッジの部屋から出た後、城下町の茶店で待っていたリディアが役目 を終えたアルセドを笑顔で迎えた。テーブルには先程注文した紅茶が 置いてあり、アルセドはリディアにすすめられるがまま向かいの椅子に 腰掛ける。
傀儡化の魔法は、アルセドが城を出た瞬間解いた。一瞬、アルセドは 意識が戻った時の廻りの状況の違いにしばし、狼狽してしまったが、 すぐさま城外と理解すると指定された茶店へ一直線に向かったのだっ た。
「リディア先生。変なこと言わなかったでしょうね、二度とエブラーナの 地を踏むことのないような事態にまで持ち込まれたら困りますよ、本当 に。」
呪縛の解かれたアルセドは不安いっぱいな表情を浮かばせながら聞く 。何故なら、アルセドの出身地はここエブラーナ近くの集落であり、恋 人も彼の帰りを心待ちにしていると聞いていた。
「ええっと、大丈夫よ。・・・多分。」
真剣な眼差しで問うアルセドから、少し目線を外しつつリディアが自信 なさそうに答える。
この地域を支配するエブラーナ王国の王にあれほどの啖呵を切ったの だ、大丈夫とははっきりと言えない。しかし、ファイガを使える魔道士な ど自分の教え子の中では彼しかいないため、彼を選出するしかなかっ たし、あれぐらいの啖呵を切らなければエッジも乗ってこないのだ。
まさに苦肉の策と言える。
最悪の場合、二、三年は家族、恋人共にバロンの元保護してもらわけ ればならないかもしれない。あくまで、最悪の場合だが。
「リディア先生~。」
リディアのその反応にアルセドは泣きすがるかのように言い、なんとか してくれと何度も懇願する。
「まあまあ、もう一仕事あるし、あとバロンの後ろ盾もあるし・・・。」
「ええ!!バロンってどういうことですか?これって国絡みのことだった んですか?しかも、もう一仕事って・・!」
目眩しそうな話にアルセドは半泣き状態でリディアに迫る。平民からし てみれば途方のないことだし、ましてやここエブラーナの国王に楯突 いたことは、ある意味反逆罪で追われるかも知れないのだ。
リディアにしてみれば、エッジの性格上そのようなことをしないと分かっ ているために考えもしなかったが、普通の平民の考えとしてはアルセ ドの判断は正しい。
理由はともあれ、普通ならば国王に楯突くことは王に対して反感を持 っていることとなり、危険分子とされる。故に反逆罪とされ処刑される ことは少なくない。
「ああ・・、父上、母上。親不孝な息子を許して下さい。そしてエル・・ご めん。もう君とは会えないようだ・・。」
自分の人生に絶望したアルセドは遂に涙ながら、諦めの言葉を口にし た。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに深刻にならなくてもいいわ。大丈夫よ 、私が責任持つから!」
慌ててリディアがアルセドを説得する。
「本当ですね!絶対ですよ!!!」
涙をこぼしながら、アルセドは身を乗り出し言葉荒げに言った。まさに 鬼気迫る表情を浮かべつつ。
「大丈夫ですって、大丈夫。」
不安定な精神状態のアルセドをなだめるかのように、リディアはそう諭 すのだあった。
決着は一週間後、エッジはその日からエブラーナ国王として国政に全 力を尽くすこととなろう。魔法は一朝一夕で修得できるほど簡単なもの ではない。例え一週間の間、寝る間も惜しんで没頭しても良い結果は 現れないのだ。
魔法には研ぎ澄ました精神力、特に黒魔法は魔法元素マナを上手く 操作する膨大な魔力を必要とする。そのため、修得には安定した魔力 と精神力が必須条件とされるのだ。
焦っては逆に効果は現れず、ゆっくりと修得しようとしても体内でマナ を練ることも知らない者が一週間で高等魔法を身に付けるなど、絶対 にあり得ないのだ。
いままで様々な優秀な魔道士、賢者が居たがそのような短期間で極 めたものなぞ存在しない。
結果は見えているのだ。絶対に高等魔法修得なぞあり得ないのであ る。いくら『人の心』に無限の可能性があったとしてもだ。

約束の日が来た。
まさに、この日はエブラーナの命運がかかっているといっても過言では ない。
リディアとアルセド、そしてエッジにテシンがここエブラーナの訓練場に いた。いつもはエブラーナの戦士達が己を高めるために剣を交じ合わ せている所であるが、このような事情のため、いつもいる戦士達の姿 は一人として見かけない。
「では、嘘偽りがないことを証明するため私から炎の最上級魔法『ファ イガ』をお見せしましょう!」
アルセドはいきなり、エッジに向かってそう言い放ち魔法を詠唱し始め る。今日のアルセドはリディアからは操られてはいないために、勇気を 奮い立たせながらエッジと対峙している。彼としては早くここから脱し たい心境だった。
「炎の魔神イフリートの怒り、ここに示すなり!煉獄の炎で焼き尽くす のだ!!」
魔法は完成した。完成と共に現れた巨大な火球が何もない大地目掛 けて放たれ、大地との接触と同時に灼熱の炎が燃え立った。
間違いなく、火炎魔法の最上級を示す魔法『ファイガ』だ。
それを見たエッジは臆する表情を見せず、ただ納得するかのように一 回縦に首を振り頷いた。
そして、エッジは自分の出番であるかのように前に進み出し、信じられ ないことを口にした。
「俺の負けだ。残念だが修得できなかったぜ。」
釈然とした表情で、エッジはアルセドに言い放った。負けを認めたのだ 。
リディアとしても堂々とした態度でそう言われると流石に拍子抜けにな り、一瞬耳を疑ったりしてしまった。だが、確かにエッジは『修得できな かった』と認めた。それは同時にリディアを諦めたと宣言したと言い換 えても良い。
しかし、エッジの言葉にはまだ続きがあった。
「だが、リディア最後に見てくれ。俺がお前のことをどれだけ思っている か今証明してみせるぜ。」
エッジがそう言うと、高らかに魔法を詠唱し始める。ルーンはファイガで はないもののリディアは驚きを隠せなかった。何故なら魔法詠唱と共 にエッジからマナの波動を感じたのだ。
「炎に住まう、火蜥蜴の息吹をここに示すなり!灼熱の炎よ渦となりて 現れよ!!」
エッジの魔法は完成した。
エッジの両手をかざした先からたちまち、炎の渦が出現し大地を焦が した。炎の中級魔法『ファイラ』である。
「ウソ・・でしょ。」
リディアは目の前で起きている現実に、動揺を隠せないでいた。上級 魔法ではないが、中級魔法でも一週間で身に付けるのは不可能なの だ。リディアとしても遂この間までマナの練り方さえ知らない者が、魔 法さえ使えるとも思ってはいなかった。奇跡が起きたとしても初級魔法 ファイアぐらだと考えていた。
中級魔法の修得なぞ、一般の黒魔道士でも一年以上の修得期間が 必要であり、中級魔法の修得は魔道士として一人前になったといって も良いのだ。
それを、目の前の忍者はやってのけたのだ。計り知れない心の力が 彼をここまで成長させたのである。
「へっ、どうだ。これが俺のリディアへの思いの証明だ。」
「まあ、こんな事を言っても俺の負けは違いない、リディアのこと潔く諦 めるぜ・・・。」
エッジは慣れない魔法に、多少声荒げにしながら言う。だが、諦めきら ない顔はしておらず、自分で精一杯の力を出したことに満足げに笑顔 をもらしてさえいた。
「だが、最後に聞きたいな。リディアの感想をよ・・・。」
背後で魔法を見ていたリディアに背中越しにエッジは問いかけた。
突然の問いかけにも、リディアは特に驚きはしなかった。なぜなら先程 の魔法で自分の心は決まってしまったのだ。エッジへの特別な感情へ の答え。一緒に旅をしてからずっと抱えていたエッジに対する悩み。
全てがリディアの心の中で一つにまとまり、はっきりと輪郭をあらわし たのだ。
リディアはテシンに無言で申し訳なさそうな視線を送る。そして、アルセ ドにも。
肩の力を抜き、大きな溜息をついた後リディアはゆっくりと口開いた。
「・・・ゴメンね、テシンさん。それとアルセドももう演技する必要ないわ・ ・・。」
テシンもしょうがなさそうな諦めの表情を浮かべながら溜息をつき、ア ルセドも虚勢を解き、力尽きたかのように地べたに座り込んだ。
「致し方がありませんな。若がここまでやるとは思いませんでした。」
嬉しいのか、残念がっているのか複雑な表情をしつつテシンは言う。 恐らく心境も表情と一緒であろう。
「!!?どういうことだ?」
予想ざる廻りの状況にエッジは困惑しながらリディアに質問を促す。
「エッジもゴメン。実は・・・・。」
廻りの状況を理解していないエッジにリディアは順を追って説明した。 エブラーナの状況やそれの重大さ、複雑な文書の意味、この計画の 全てまで。
「要するに、ずっと俺はお前にはめられ続けていたと・・・。」
凄む声でエッジは納得するような言葉を出し、リディアに怒りの炎を宿 した視線で睨む。
「私だって、こういう人を罠にかけるような事好きじゃないけど、エッジ のひねくれた性格にはこれが一番だと思って・・・・!!」
エッジの視線に気圧されたかのように、リディアは早口で弁解をし始め る。しかし、エッジはそんな言葉に耳を貸さないかようにリディアに近づ き、ついには手首を強引に掴みだした。
殴られるか、罵声を浴びせられるか分からないが、リディアは自然に 身を縮め丸めた。
「そんなことはどうでもいい、それよりも成功していた計画を何故止め たんだ?俺はそこを聞きたいぜ。」
意外な言葉にリディアは片方で頭を覆っていた手を外しながら、惚け た表情を浮かべる。だが、エッジの問いの答えを頭に浮かべると自然 に頬が朱に染まり、エッジから視線を外すが、次の瞬間、意を決した 表情をするとゆっくりと答えを言い始めた。
「私・・・炎キライだった。小さな頃に故郷を焼かれ、その炎の中お母さ んが死んでいったことを思い出すの。その後、ローザさんから勇気づ けられて炎の魔法を使えるようになったけど、やっぱりキライだった。」
「みんなの手助けになるために必要なときは魔法使っていたけど、使う 度に、炎を見る度に胸が痛んだ・・・。今まで・・・、今日までそうだった・ ・・。」
エッジがその場にはいなかったが、その話は聞いていた。前バロン王 に化けたカイナッツオの命令で、リディアの故郷『ミスト』に向かったセ シル達のせいで起こった惨劇のことだった。魔性の腕輪『ボムの腕輪 』で村の殆どが焼かれ、有能な召喚士もその時ほぼ焼け死んだと聞 いている。
ローザから諭され立ち直ったと聞いていたが、やはりそう簡単に拭い 去れるような過去ではない、エッジは静かにリディアの話に耳を傾けた 。
「だけど、エッジの炎を見て、初めて炎の暖かさを感じたの・・・。」
「キライだった炎、見る度に心が痛んだ炎に、初めて心の暖かさや、勇 気を感じた・・。」
「そして、同時にエッジの私に対する気持ちもこの上なく感じた・・・。」
「おかげで、私の気持ちもはっきりしたの・・・・エッジのことが・・・好き だって。」
最後の言葉を出すのに一瞬リディアは躊躇したが、勇気を振り絞り消 え去るかのような声で言った。
「・・・リディア。今なんて?」
突然の告白に今度はエッジが惚けた顔をして、言葉の真意を確かめる かのように問う。
「もう二度といわない!!」
今まで握っていたエッジの手を振り払い、リディアは背を向けながら言 った。もう、顔から火が出そうなぐらいリディアは顔を赤らめていた。
「じゃあ・・さ。俺と一緒にこのエブラーナを引っ張っていかねえか?」
エッジも意を決してリディアに言った。当然言葉の意味としては、求婚 を申し込んでいるのに違いはない。エッジも今は心臓が今にでも口か ら出そうな心境だった。
「・・・・・。」
しばらく、辺りに沈黙が続いた。テシンとアルセドも二人の事の進みに 呆然としつつも、ただ沈黙を守り続けるしかなかった。
「・・・いいよ。」
しばしの沈黙の後、依然エッジに背を向けたままリディアは、口元に笑 みをこぼしながら、そうポツリと呟いた。
どうやら、自分のいるべき場所はここのようだ。きっと彼は自分のこと を幸せにしてくれる、あの炎のように勇気づけ、暖かく包んでくれると思 う。
空の彼方にいる母もきっと祝福してくれるだろう、リディアはそう思わず にはいられなかった。
今、目の前の若き国王は私の言葉を聞いて、歓喜の言葉を口にして 自分を強く抱きしめている。
(調子いいんだから・・・。)心の中で、リディアはそう微笑みながら思っ た。

この後、エブラーナ国王は美しき妃を娶る。この世を救った英雄の一 人であり、優秀な魔道士である。そして、エブラーナは荒れ果てた国内 を復興させ、更に空前な発展を遂げた。

後に当時家臣テシンは語る。
『妃を娶ったのと同時に悩む日々が無くなったが、無くなるのと同時に 家老としての役目も減ってしまったような気がし、物足りなさを感じるの は不思議なものだ。』
『あの妃を選んだ国王も、それに諸手で賛同した自分も人を見る目は 確かであった。』-と。

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