【第102話】
死に場所
盗賊あがりの神父トールは過去に
村人行方不明事件に関わっていた。
家族を失い、ひとり残されたトールは元凶を知り、イシスへの同行を申し出てきた。
「むぅ・・・、だが危険じゃぞ」
「それは覚悟の上です。
もともと村にいなかったときにたまたま拾った命。
私には残すものもありません」
親方は考えていた。一度は組織を抜けたトールを巻き込むきか、考えているのだろうか。俺個人の意見を言わせればトールの問題なのでイシスに行くのは個人の勝手だと思う。
足手まといになるような奴は困るがトールがただ者ではないことは親方が知っているはずである。それとも別の理由があるのか?
しばらく考えてから、親方は言った。
「わかった、ついてきてかまわん」
親方は了承した。
「ありがとうございます」
トールは礼を言った。
「ではすぐに支度をすませてきますので
少々お待ちを」
そう言うとトールは部屋から出ていった。
「なぁ、親方。なんでトールの同行を一瞬考えたんだ?
そりゃ、危険な場所だけれど、
トールが戦力になるのは明らかじゃないか」
俺は親方に疑問をぶつけた。
「トールが死に場所を求めているように思えたからじゃよ」
「どういうことだ?」
「トールは未だに家族のことを後悔している。
今回同行する理由には半分は復讐の念もあるだろうが、
半分は自分の死に場所がこの戦いであると
思えたからではないか?」
「なるほど・・・確かにそれはあるかもしれないな」
「死にたいと思っている人間を戦場に連れていけば
そいつは確実に死ぬ。
つまり、それはワシが殺したも同然じゃ。
もしワシがこの場で同行をゆるさなければ、
あやつがイシスで死ぬ可能性はないからな。
そして死は周りにも影響を与える。
目の前で人が死ねば動揺する。
それが戦況を大きくわけることもあるんじゃ。
ルーニ、おまえも覚えておけ。
戦場で生死をわけるのは、戦闘の技術もあるが
何より生きたいという気持ちが大切じゃ。
その気迫が強ければ、回りの人間にも活力を与え、力になる」
親方の言葉にはいつも説得力があった。また今回の話は親方がサマンオサ時代に騎士団の団長をつとめていたときの騎士の心得もあるのだろう。
漠然とではあるが、親方の言うことはわかる気がする。俺はうなずいた。
俺は後にイシスとは別に大きな戦争に巻き込まれる。生きたいという気迫が与える力を
自分より一回りも小さい少女に見せられるとは
この時は思ってもいなかった。
第103話 砂漠の武装
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