【第98話】

親方の演説


親方は俺をイシスに連れていきたがらなかったが

俺はしつこく食い下がった。


そしてようやく動向の許可が出た。




俺は明日の支度を行おうと倉庫で装備品などを整えていたところ

ゼネテスが俺のところにやってきた。


「親方がみんなに話があるそうだ。

 一階の広間に集合だ」


「あぁ」


俺は短く答えた。


「あと、親方に聞いたぜ。

 おまえも来るんだってな。

 足手まといになるなよ」


俺は一瞬いつものように言い返そうと思ったが、思いとどまった。


ゼネテスは俺が歩んできた道を同じように生きてきた男だ。

そして、これから共に戦場で戦う仲間だ。

ここで言いあっても仕方ないし、

腕はあいつの方が上だ。

親方の話を聞いて、共感したのかこいつ実力を素直に認める気になった。


俺がどんなに足手まといにならないと言い張っても

奴にとっては足手まといかもしれないし、

けが人が一緒にいくというのだからそう思うのはあたりまえだろう。


「あぁ、気をつける」


俺はそうゼネテスに言った。


ゼネテスは俺が言い返すと思ったのか一瞬怪訝そうな顔をしたが

何も言わず広場に向かっていった。




一階にいくと、かなりの人がいた。

ざっと二百人近くいるだろうか。


全国から召集したと言っていたが、

中には来られなかった連中もいるだろうから

実際はもっといるだろう。


親方は、全員が広場に集まると話し始めた。


「ワシはこれからイシスに向かわなければならん」


「イシスって、親方が調査してきたところですかい?」


仲間の一人がたずねる。


「そうじゃ。我らはロマリア王の要請でイシスの現状を調べてきた。

 魔王バラモスの知らせは皆も知っているとおり、

 イシスの女王が隣国のロマリアに救援を求めてきたのじゃ」


「救援?」


「イシスがバラモスの手に落ちそうであるということだ。

 そこでワシに救援を求めてきた」


「なんで・・・あんな辺境な地にバラモスが・・・」


俺もその理由が知りたい。


「残念ながら、バラモスがテドンの次にイシスに狙いをつけたのかは、わからん。

 すでにイシスの兵はバラモスに操られているである魔物と交戦中じゃ。

 だが、このまま行けば、イシスは間違いなく落ちるであろう」


皆がざわめく。


「ロマリア王としても兵を出したいのは山々じゃ。

 幾分かの兵は出す予定じゃ。

 だが、肝心の自国が守れなければ話にならん。

 全軍をあげて救援にいくわけにはいかん」


「まぁ、話はわかるな」


皆がうなづく。


「そこで我らにも救援を求めてきた。

 そこでワシは各地の勇者と呼ばれる者への呼びかけを行おうと思っている。

 だが今からではイシスへの増援は間に合わん。

 よって皆にはこれから各国にいき、

 呼びかけを行ってほしい。

 ワシはイシスに行って、魔物を食い止める」


また皆がざわめく。


「なんで、親方がイシスに向かうんだよ」


「死ににいくようなもんだぜ」


「皆のもの、静まれ」


親方の一声で静かになる。


「もちろん、勝算があるからワシは行くんじゃ。

 だから、おまえ達は自分達の役割を果たしてほしい」


顔を皆見合わせる。

しかし反対するものはいなかった。


親方の命令は絶対だ。

俺達はならず者の集まりだが、その辺りは皆心得ている。

だから、組織として動くことができる。


「だが、もし万が一、ワシの身に何かあったときは

 ワシの代行としてゼネテスとルーニが代わりを勤める」


この一言で、また皆がざわめいた。


もしものことを言ったということは、やはり危険度が高いということ、

ゼネテスや俺が次期棟梁候補としてあがったことなど、

理由はいろいろだろう。


「静まれといっておろうが」


親方の一声でまた静まる。


「今回、ゼネテス、ルーニにも動向をしてもらう。

 一番危険度が高い仕事とも言えるであろう。

 前線で戦うことになるのだからな。

 

 もし次期棟梁の候補に名乗りをあげたいものがいるのであれば

 手をあげるがよい。

 一緒に付いて来てもらう」


皆、顔を見合わせるが手をあげるものは誰もいなかった。


やはり自分の命は惜しい。

そう考えるのは普通だろう。


「出発は明日。気がかわったものはあとでワシの部屋に来るがよい。

 また各自への指示は本日中に行う」


そう親方は締めくくった。


第99話 ゼネテスとの共感

前ページ:第97話 「似たもの同士」に戻ります

目次に戻ります

ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります