【第162話】

感情


過去にあった悲しい出来事。

その出来事が私の前で次々と回想される。

わたしの心は悲しみで飽和状態になった。

何でこんな思いをしないと・・・・・・いけないの・・・・・・・

もう何もしたくない・・・・・・・何も考えたくない・・・・・・


立ち上がれないほど私は疲れ切っていた。

こんな思いをするなら感情などなければ・・・・と思う・・・・

 

”違うよ”

 

誰かが私に呼びかける。

 

”感情があるからこそ、人は楽しむことができるし、

 恋をして生きるんじゃないの?”

 

「・・・・・・・・誰?」

 

”悲しみという感情があるから・・・・・

 あなたが悲しみの感情を理解しているから

 人に悲しみを与えないよう、あなたは戦ってきたのではないの?”

 

たしかに・・・・・・そうよ。

人を失う悲しみ・・・・・・・父さん。

 

”あなたが幸せを感じるときは何?”

 

人と話すとき・・・・・・・ふれあうとき・・・・・・・・・

自分が優しくなれるとき、自分が豊かになるとき・・・・・

そんな心を他の人にも知ってもらいたいから・・・・・・

人を悲しませたくないから・・・・・・

 

もうあの悲しみを味わいたくないから、私は戦った。

そして、父さんの意志を継ぐため!

 

”感情というものは大切なもの。

 人を幸せにする力もあるし・・・・・・人を死に追いやることもある。

 でも悲しめるってことは素敵じゃない?

 だって、あなたは”生きているんだから”

 生きている楽しみはあなたが良く知っているはず。

 生きていたいからあなたは戦ってきた。

 感情があるからこそ、戦っていた。・・・・違う?”

 

「違わないよ!」

 

悲しみは味わいたくない。

強い悲しみは人を”自殺”ということで

死に追いやることもある。

死ぬことで悲しみから逃れるのも1つの手段だと思う。

それは人によってだと思う。

 

でも・・・・・私は絶対にその手段をとりたくない!

もっと生きたいから!

人々に悲しみをあじわせたくないから!

 

”よくわかったね・・・・・・チェルト”

 

「あなたは・・・・・・・・いったい誰?」

 

その人の顔が徐々に見えてきた。

 

「え?・・・・・・・私?」

 

”よくぞ試練を乗り越えた、チェルトよ・・・・”

 

重々しい声が響き渡った。


第163話 もう一人のわたし

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