【第166話】

戦乱の中の小さな幸せ


私が帰らないのを見るとホビットさんは座り込んでしまった。

私も床に座り込む。

自分が、人を救えるとは思わないけれど、

でも、苦しいわだかまりを話すことで、心が楽になることがあると思う。

私は彼の話を聞くことにした。


「もう・・・・・・・・

 何十年前になるだろうか・・・・・・・

 

 天空界、地上界、魔界は、ゾーマの裏切りにより、戦乱の世の中じゃった。

 当時は、自分たちが生き残るために必死じゃった。

 毎日、戦いに明け暮れ、気が狂う毎日・・・・・・・・・

 食事も満足にとれない・・・・・・

 

 だが、儂にも、愛する妻がいてな・・・・・・・・・

 こんな世の中じゃったから、結婚式などあげることはできなかったが、

 妻は儂を愛してくれたし、儂も妻を愛した。

 戦乱の中に・・・・・小さな幸せな日々があった・・・・・・」

 

愛する人か・・・・・・・・いいな・・・・・・・・

その当時の出来事はとても喜べる状況ではなかったが、

純粋に人を愛する人がいることが、うらやましかった。

 

「そして、そんなある日、妻は子供を、身籠もった。

 本当は喜ぶべきことなのじゃが・・・・・・・・・・・・・

 世が世だけに、食べる物もない、

 当時、子供を持つことは、決して、許される時代じゃなかった。

 自分たちが食うのも精一杯じゃからな。

 だが・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪い気持ちじゃなかった」

 

素直にうれしいって言えばいいのに。

 

「ん?」

 

いえ・・・・・・・・・・・・・ 

 

「子供とは不思議なもんじゃな。

 戦争で、すさんだ心、憎しみ、

 気が狂うような、毎日じゃったのに・・・・

 自分たちの首をしめることになるかもしれんのに

 子供が産まれることを考えると、心が安まる・・・・

 自分たちが苦しむと言うことより、新しい命が生まれる

 それが、本当に我々の心を癒してくれた・・・・・・・・」

 


第167話 生まれてくるはずだった子供

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