【第283話】

カンダタとの別れ


メルキドの戦はどうにか勝利をおさめた。

しかしそのための代償はあまりに大きすぎた。

失われた命はもう戻ってこない・・・・・・・




あの壮絶な戦から3日が過ぎた。

メルキドの街を見るとまだいろいろな人が

怪我で苦しんでいる。

傷を癒す僧侶や医師、薬剤師の数が

圧倒的に足りなかった。


しかしラダトームの方も王と騎士達により魔物達を退け、

ラダトームからいくらかの派遣があった。


今回の戦いで大魔王達にもかなりの被害を与えたので

しばらくは戦も起こらないだろう・・・・そう騎士隊長は言っていた。


もうあのような戦は二度とごめんだ。

私は複雑な顔で騎士隊長達の前を去った。


今はカンダタの見舞いに来ている。

メルキドを今日離れるため、彼にも話しておかなければいけない。

カンダタの姿は痛々しかった。


部屋に入ったあと沈黙が流れた。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


しかしカンダタの方から声をかけてくれた。


「・・・・・行くのか?」


「・・・・・うん」


傷はふさがったけれど腕を失ったカンダタは

しばらくは絶対安静とのことで

メルキドにとどまることになった。


「カンダタ・・・・・・」


「ん?」


「・・・・・ごめん・・・・・」


「・・・・何が?」


カンダタは惚けたような顔をしている。


「だから・・・・私を守るため・・・・」


「その話はもういい。

 気にするな。

 おまえを守れた。

 それで満足だ。

 他に何がある?」


「・・・・・・・」


「確かに残念なことはある。

 これからおまえと旅ができなかったことだな。

 剣も握れなければ足手まといになるだけだからな。


 だがな、おまえが大魔王ゾーマを倒した時は

 俺の名前もあがるってもんだ。

 勇者チェルト様の命を守った大盗賊カンダタ様ってな。

 ハハハ」


「・・・・・・・」


「そんなしょげた顔するなよ?

 おまえは勇者だろ?

 仲間のはぐ坊だっているだろ」


はぐ坊とははぐりんのことだ。

急に呼ばれたはぐりんはきょろきょろする。


「おまえにはわだかまりがあるのかもしれないが

 俺にはないんだ。

 むしろ感謝してくれるくらいだ。


 俺達の世界を救ってくれた。

 そしておまえは俺の生き方を変えてくれた。


 人間はいつか死ぬもんだ。

 だから人間っていうのは・・・・・いや人間に限られたことじゃねぇが、

 生きているうちに何をするかってことだと思うのよ。 

 おまえは俺に生きている意味を見出してくれた。

 俺に生きている証をくれた。


 そしてそいつの手助けができたんだ。

 こんなに誇らしいことはないぜ」


そう言ってもらえたカンダタの優しさがうれしかった。


「・・・・・ありがとう・・・・・」




中間あとがきです。

「勇者の盾編」に続く今回の「王者の剣編」は

ものすごく長いストーリーで

第229話から始まりましたがこれが第283話なので

すでに50話以上あるのですが

まだこの後しばらく「王者の剣編」が続きますので

中間あとがきを挟みました。


「王者の剣」編は

第1部 カンダタ編

第2部 メルキド編

第3部 オルテガ編

の計3部から成っていまして

今回で第2部までが終了しました。


王者の剣ってゲームの方では

オリハルコンとってマイラの鍛冶屋に入って終了と

以外にあっけなく手に入るのですが

やはりそれだけではと思い、

王者の剣を手に入れるまでいろいろなストーリーを

織り交ぜてみました。


ラダトームに太陽の石を盗もうとして捕まっていたカンダタ、

しかし彼には彼なりの考えがあって行動をしていて

オリハルコンを手に入れ、チェルトのことを助けました。


上の大陸の魔王バラモスを倒して世界を救ってくれた勇者ということも

あるでしょうが、自分の生き方を変えてくれた人の手助けをしたい

そういう純粋な思いが大盗賊カンダタの心を変えました。


「自分から行動をしなければ何も始まらない」


それは人に頼るのではなく自分から行動を起こせる勇気を持つ、

そういうところを少し書きたかったのかもしれません。

それが第1部です。


あと第2部ですが戦の愚かさについても少し書きましたね。

数ヶ月前にあのアメリカテロ事件で戦争がありますよね。

あれがあったから今回のメルキド大戦のストーリーを書いたわけじゃないんです。

逆にテロ事件がある前にこのストーリーのあらすじは書いていて

執筆することを決めていたので

その矢先にあの事件が起こったので

今回のストーリーを掲載するの正直言うと

ちょっと当時はためらったのです。


しかしそれは作品を書かない理由には当てはまらないと思い

続行して今回のメルキド編を書いてみたのですが、

どうだったでしょうか。


私が訴えたいことは直接言葉では書きませんが

「王者の剣編」の第1部、第2部の54話分の

チェルトの文から読者さんそれぞれが何か

一つでも考え、感じるものがあれば

私も執筆した甲斐があったというものです。


さて次回から「王者の剣編」 第3部 オルテガ編です。

オルテガがどうやって虹のしずくを使わずに

チェルトより先に大魔王の島に渡ったのか

王者の剣は本当に復活するのか

そういうことが明らかになる王者の剣、最終部のストーリーです。

では次回以降引き続き「王者の剣編」をお楽しみください。


第284話 炎の柱

前ページ:第282話 「大きすぎる代償」に戻ります

目次に戻ります

ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります