【第321話】

暗闇の戦い


扉をあけると、ムッとする血生臭さがした。

暗闇の部屋に閉じ込められた私。

部屋に響き渡る魔物の悲鳴。




暗闇で辺りがどうなっているかわからないが

この血生臭さは人が魔物に食い殺された臭いだろう。

さらに塔には入ったら鍵が締まるように罠までかけられていた。


魔物が奇怪な叫び声をあげて襲いかかってきた。


あせるな・・・・

あせったら一瞬で殺されてしまう。

見えない敵と戦うにはどうする?

私はバラモス城で、幻影の術を使った魔法使いエビルマージとの

戦いを思いだした。


私はその場から一歩も動かず、目をつぶり剣と盾をかまえた。

暗闇なのだから、目は不要だ。

見えないことで不安を感じればますますやられる確率が多くなる。

落ち着くことが大事。

気配だ。

気配で敵を探れ。

無駄な動きはするな。

そう自分に言い聞かせた。


片足を軸にしてその場から動かずもう片足だけを素早く動かし

円を描くように体を方向転換しながら剣を振るった。

剣に確かな手ごたえがあり、同時に悲鳴が響き渡る。

一匹。


殺気を感じてまた剣を振るう。


悲鳴。

・・・・・・・二匹。


暗闇の中、片足を軸にしてさらに方向転換をする。


もしこの暗闇の部屋に別のトラップがあれば、動き回るだけで危険だからだ。

逆に言えば、今いる場所だけは安全が確保されている。

移動先の片足に仮にトラップがしかけられていても

もう片足が地面についているから落とし穴などのトラップなら

すぐに足を戻して回避できる。


度重なる過去の激戦は、私に気配で敵を絶つ術を覚えさせてくれた。

どうやら、敵は空を飛ぶ敵で暗闇でも目が利くらしく

上空から正確に攻撃をしかけてきた。

私は敵の気配を察し、上体をそらしたり身をかがめることで

敵の攻撃は最小限の動きで避け、避けきれないものは盾や鎧で受け止めた。

勇者の盾と雷神の鎧はダメージをよく吸収してくれた。

受け流した後、すれ違いざまに稲妻の剣を振るい一匹ずつ魔物をしとめていく。

傷を負ったらすぐに回復魔法を唱えた。


五回ほど敵をしとめた手応えがあったとき、敵の反撃がなくなった。

敵の反撃がなくなると同時に部屋の明かりがつき、

閉ざされた扉の鍵が開く音がした。


見渡すと数人の人間の食われた死体と

今私が倒した五体の魔物の死体が部屋にあった。

その魔物は私が塔に入ったときにメラゾーマを唱えた魔物と同じだった。

魔物がメラゾーマを唱えなかったことが幸運だった。

燃えてしまえば、魔物の貴重な食料、つまり私が炭になるだろうし

暗闇だから敵も油断したのだろう。


私が最初に入ったときに血の臭いを感じたのは

この部屋のトラップにかかり

暗闇の中で今倒した魔物に食い殺された人達だった。


本当ならこの人達を弔ってあげたかったが

他のトラップが発動するかもしれないし

私はこの部屋に他にないのもないことを知ると部屋を立ち去った。


第322話 明かりの魔法

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