【第435話】

親友との再会


竜の雷と神の神器により、”闇”が消えた。


ゾーマの実体は霧のように消え、真っ暗闇だった視界に光が入ってくる。


大魔王の魔力がなくなった今、戦いの場が有るべき姿に戻ろうとしているのだろう。




「はぁ・・・はぁ・・・」


私は荒い息をついた。


ゾーマの殺気は・・・完全に消えた。


私はそのことに気がつくと、膝から崩れ落ちる。


体中が震えている。そして同時に激痛が走る。


私の体は限界を超えても、尚、体を酷使したため、

体中の筋肉や神経がずたずたになっていた。


戦いに集中している間は、痛みを感じなかったが

脳が痛みを感じさせないようにさせていたのだろう。


回復魔法を唱えようとしたが、もう魔力も残っていなかった。


私は痛みをこらえ、再度立ち上がった。

大魔王がいたところには、王者の剣が転がっていた。


王者の剣を鞘にしまおうと手にとった。


”まさか人間ごときにこのワシが破れるとは…”


突如ゾーマの声がした。


私は反射的に王者の剣を構えた。


まだ生きている!?


だが、大魔王の声は弱々しかった。


”小さき人間よ、よくぞワシを倒した。

 だが…これで終わりではない。

 光ある限り闇もまたある……。

 ワシには見えるのだ。

 遠い未来が。

 再び何者かが闇から現れよう……。”

 

「ど、どういうこと!?」


私はゾーマの言葉に動揺した。


しかしゾーマは答えない。


”新たな闇が現れるとき、人々は恐怖に怯え、世界は混乱に陥る。

 だがその時、お前は年老いて生きてはいまい…”


そこでゾーマの声がとぎれた。


「新たな闇って、何!?」


大魔王からの返答はなかった。


変わりに地面が揺れた。

突然、その場に立つことができない程大きな地震が起きた。


「っ…」


私は体の痛みをこらえながら、剣を床に突き刺し体を支える。


地震はさらに大きさを増していった。

地割れが起きる。


まるで私を道連れにするかのような。


「そ、そうだ、父さんのところにいかなければ…」


ゾーマの新たな闇という言葉も気になったが、

今は父の亡骸を担ぎ、この場を脱出しなければ。


そう思った瞬間、私の立っていたところの地面が裂けた。


「きゃああああ!!!!!」


私は地割れに飲み込まれ、意識を失った。




私は光の中にいた。


そこには地面が存在していなかった。


ただ、光の中、ぽつんと私はその場にいた。


まるで空を飛んでいるみたい…


非現実的な世界。


これは…夢?


それとも、私は死んでしまったの?


”チェルト…”


突如私の頭に小さい声が聞こえた。


”頑張ったね…チェルト…”


私は声に聞き覚えがあった。


「はぐりん?」


”そうだよ”


私は親友の声に安堵した。


「はぐりん!!!」


”ずっと君の戦いを見ていたよ。

 よくやったね”

 

はぐりんの優しい声が聞こえる。

 

「ありがとう。

 ここはどこ?

 私は死んでしまったの?」


私は今いる場所をたずねた。


”君は死んでいないよ。

 ここは時空の狭間”


「時空の狭間?」


”空間の歪みとも言うかな。

 君は今まで、旅の扉を使っていろいろなところに行ってきたでしょ。

 ゾーマ城の下にも同じような時空の歪みが存在し、

 そこに飲み込まれたんだ”


つまり旅の扉と旅の扉の中間点にいる、という感じなのかな。

でも、そんなところに閉じこめられたら…


「私はどうなるの?」


少し不安を感じた。


" 大丈夫。

 ボクが君をここから出してあげるから。

 どこに飛ぶかはわからないけれど、アレフガルドのどこかに出られるはずさ"


どこに飛ぶかはわからないって…


無人島や、海の上に放り出されたら困るんだけれど…


私は余計に不安になった。


" 心配しないで。

 君が今までいったどこかに出られるようにするから。

 ちゃんと地面があるところにね"


はぐりんは優しく言ってくれた。

その言葉と声に安心する。


私ははぐりんとの再会を喜ぶことにした。


「私もはぐりんの存在は感じていた。

 こうやって、もう一度話すことができて、本当に嬉しい」


”ボクもだよ”


「でも…ゾーマは言ったわ。

 まだ新たな闇が現れるって。

 これってどういうこと?」


私ははぐりんにたずねた。


”わからない。

 でも、君が生きているときではないと言っていたね”

 

「私…どうすればよいのか…」


”今は君が考えても仕方ないことだよ。

 その時代の出来事はその時代の人々が解決するしかない”

 

「じゃぁ、私にできることというのは、

 次の世代のために準備することだけかな…」

 

”そうかもね。

 でも今は全てを忘れてもいいんじゃないかな。

 君は自分の目的を果たしたんだ。

 君が取り戻した平和な世界が、待っている。

 チェルトが望んだ世界がね。

 今はそのことを感じるだけでいい、ボクはそう思うよ”

 

「わかった。はぐりん、ありがとう」

 

”うん、さよなら”


「ねぇ、はぐりん、また会える?」


”ボクは、いつも君の側にいるよ”


「そうだったね」


私は腰にかけている、雨雲の杖に手をあてた。


光の世界が消えた。


第436話 光の空

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