【第53話】

愛の想いで


信じられない光景が目の前に広がっていた。

あちこちに、腐った人々の屍がたくさん。

それなのに、人々は、船をこいでいる。

その瞳には何もうつっていない。


”お、おねがいだ!助けてくれぇ!”

”溺れて死ぬのは苦しい・・・・・・”

”い、いやだ!死にたくねえよぉぉ!”

その部屋に入った瞬間、いろいろな思念の固まりみたいな物が

私の頭の中に入ってきた。

な、何なの・・・・・・これは・・・・・・

頭が痛い・・・・・・

い、いや!

やめてっ!!

わたしは何も悪い事していない!

なのに、なのに、何故こんな事を!

人々が苦しむ声が、死ぬ瞬間の光景が、次々と映し出される。

あぁ・・・・・・・・・




ここは・・・・・・・・

そうか、私は気を失ったんだ・・・・・・

うっ・・・・まだ、頭痛が・・・・・

よろけながら、立ち上がる。

何だったんだろう、さっきのは・・・・・・

幻・・・・・だったのか・・・・・・・


”嫌です!”

な、なに?また、声が?

”なぜ、離ればなれにならなければいけないのです?”

”・・・・・わかってくれ・・・・・・・”

”私は、私は・・・・あなたのことがこんなに好きなのに!”

”これは親同士が決めたことだ・・・・・・

 どうしよもない・・・・・・”

”そんな・・・・・・・”

声と同時にその映像が私の脳裏に送られてくる。

見えるのは、若い男女が一人ずつ。

”それが、君の幸せであり、僕の幸せででも有るんだ”

”私は幸せではありません!

 あなたと一緒にいないくらいなら、死んだ方が・・・・・・・”

”何をいうんだ、オリビア!”

”だ、だって・・・・・・”

”生きてさえいれば、きっと会える!

 だから、死ぬなんていわないでくれ!”

”で、でも・・・・・・”

”必ず、君を迎えに来る。

 その時には君をきっと・・・・・”

”そろそろ、お時間です”

”も、もう少し待ってくれ!

 お、おい、は、はなせ!”

”ま、待って、エリック!エリックぅぅぅ!”


第54話 エリックの願い

前ページ:第52話 「幽霊船」に戻ります

目次に戻ります

ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります