第九日目

  今日はさんざん叩かれた。相変わらず反抗的だとされている。ヘンリーは僕の事 を見上げた根性だと言っている。俺でさえ素直な性格になったのに、なんていっ ているが、きっとあれは違う。多分ヘンリーはずっと自分をいじめているのだろ う。父さんに対して罪悪感を持っているらしい。

マリアさんと話をした。もともとここの信者だったけれど、大事な皿を割ったと かで奴隷にされたという。でも、この不幸に負けない、けなげな人だ。尊敬して しまう。

そう言えば、兄がここの兵士をしているといっていた。きっとあの人に違いない。 以前、妹がここに入れられてしまったという話を聞いた。明日できればもう一度 会ってみたい。



昨日の続き

ヘンリーが僕の目の前で何者かに誘拐されてしまった。父さんと僕ですぐに後を 追うが、そのうち僕と父さんははぐれてしまう。一人取り残された僕は途方に暮 れてしまった。よっぽど城に報告しようと思ったけれど、余計な騒ぎになるだけ だという父さんの言葉を信じていた。どちらが正しかったのかは分からない。た だ、あの時は悪い胸騒ぎがして、城へ戻る時間が惜しかった。城で見た地図の記 憶を頼りに、北東のあやしい遺跡へひたすら走った。

古代の遺跡の奥、父さんと魔物が戦っていた。薄暗い迷路の中、少しでも父さん のところへ近づこうと必死だった。曲がり角にくるたびに大きく息を吸い込んで、 それから飛び出した。僕のレベルからいって、よく行けたものだと思った。

僕が父さんのところにたどり着くと、父さんはちょうど魔物を3匹蹴散らしたと ころだった。それから振り向いて、少し驚いたようだった。
一瞬喜んで、それからすぐに厳しい目に戻った。「来てくれて、嬉しい」とか、 いったように思う。けれど、心からの喜びではなかったのはすぐに分かった。

合流して奥へと進むと、ヘンリーが閉じ込められていた。ヘンリーを見ると父さ んは思わず飛び出し、カギを力いっぱいひきちぎった。しかし、幼いヘンリーは 帰りたくないと言い出した。家族と王族の問題だからここではあまり触れない。 だが、その時父さんはヘンリーをひっぱたいた。僕でさえされた事ないようなビ ンタだった。
「お父上の気持ちを考えた事があるのか」と言っていた。僕は父さんのこんな顔 を見た事が無い、はじめてみる表情をしていた。


僕らは脱出する事にした。襲ってくる魔物を父さんが食い止めているあいだに、 僕らは出口へ向かってひた走った。




ついにあの時の事を書く。

出口には何者かが待ち伏せていた。薄笑いを浮かべた奴に僕らはあっという間に なぎ倒され、ぼんやりしながら父さんが駆けつけるのを見ていた。
次に覚えているのは父さんがゆっくり崩れ落ちていくところだ。僕の首には刃物 の感触があった。ずるいや!、と一言だけ思った。
父さんが這いずりながら僕の手をつかんでこう言った。「おまえの母のマーサは、 きっとどこかで、まだ生きている」その瞬間、父さんのからだが炎に包まれ、そ して消えた。

気がつくと右手にビアンカのリボンを握っていた。「ネコちゃんにつけてあげる ね」とビアンカは言っていたのに、なぜあの時手に持っていたのかは分からない。 そして左手にはまだ父さんの手の感触が残っていた。

「このキラーパンサー、どうします?」と言っているのが聞こえた。横で黄色い ものが蹴飛ばされるのを見た。そのあと、急に体が浮きあがる感覚があって、僕 は再び気絶した。


サンタローズを出るときに父さんは、「今度の仕事が終わったら、少し落ち着く つもりだ。おまえとも遊んでやれるぞ」なんて言っていた。
悲しい。



明日からは、もっと最近の事を書こうと思う。


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