八月二十三日

  今日はいろいろあった。今はあの修道院を目指して進む途中で、野宿をしている。

関所はみごと通りぬけた。ヘンリーが番人に一発ぽかりと叩いて、身分を明かし たのだ。
なかなか劇的な瞬間だった。おかげでラインハットまでは何事もなく行けた。

ラインハットはひどいありさまだった。明らかに政治が悪い。質の悪い、魔物の 傭兵が町をうろうろしているし、乞食も増えている。税金を払えないものはすぐ 処刑するし、他国へ侵略も始めているようだ。
最初のうち、ヘンリーは「デールは何をやっているんだ」なんて言っていたが、 政治の実権が太后君にあるということを聞くと、かえって冷静となった。
「あの女自身は政治なんかちっとも分からないのに、なぜだろう?」と首をひね っている。

そのうちヘンリーが地下道のことを思い出し、そこで地下牢を見つけて疑問は解 けたようだ。太后の本物らしい女の人が閉じ込められていた。ヘンリーは「哀れ な女だ」と言って素通りしようとしたけれど、あの言葉はショックを受けたに違 いない。
「確かに10年前第一王子を亡き者にしようとしたのはわらわじゃが、今は改心し たのじゃ」
太后は目の前にいるのがヘンリーだとは気がつかなかったようだ。


デールに身分を明かして地下牢のことを話すと、デールは真実をうつす鏡への手 がかりをくれた。一種のクーデターになるからには明らかな証拠が必要というこ とだろう。僕とヘンリーは伝説の鏡を探しに、名も知らぬ塔へついた。

塔は鍵かかかっていて開かなかったが、修道院に手がかりがあると知った。付近 の小高い丘からあたりを見渡すと、北西の方に見覚えのある地形が見える。まさ に、あの修道院だ。

というわけで、今、そこへ向かう途中だ。ただ、思ったよりも遠い。着くのは明 日になるかもしれない。


「マリアさん、いるんだよなあ」とヘンリーがつぶやく。手の早いことだと僕が つっこむと、何言ってんだ、馬鹿と返された。
冗談が通じるようなので安心したが、あの国のこと、あの家族のこと、どう思っ ているのだろうか?


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