<絆を求めて>
by オリーブドラブ
(グランバニア王子と王女によって主人公が石化から救出される数日前。
あるラインハットの兵士の視点から見たストーリー)

 

兵士。
それは、ただ強くなければならないものだ。
どれだけ国に忠誠を誓っても、戦いに勝てなければ存在する価値は見出だされない。
独りだろうと、強ければ、それでよい。
少なくとも、あの日までは俺はそう考えていただろう。

…俺は祖国のラインハットからグランバニアまで、出稽古に赴いていた。
俺の祖国であるラインハット王国の第一王子であるヘンリー王子と、現グランバニア王であるリュカ王の親交が深いという理由で、リュカ王の即位以来、ラインハットとグランバニアは合同稽古を行うことになっていたからだ。

だが、リュカ王とその妻に当たる王妃が行方知れずとなってから、かれこれ八年余りも過ぎている。
それを考えてみると、正直、こんなことをしていていいのかと疑問に思う。

俺は自分で言ってしまうのも難なのだが、ラインハットの兵士達の中ではほぼトップの実力だ。
剣術試合でも一度も負けたことが無い。
本来なら二〜三人ほどグランバニアに派遣されるはずなのに、今回は俺一人が派遣された。
どうやらヘンリー王子の意向らしいが、真意は見えなかった。

俺一人で十分、ということなのだろうか?

王子はただ、「リュカの国の兵士と戦えば、更に強くなれる術を見いだせる。」としか言わなかった。

グランバニア城にたどり着き、オジロン大臣に謁見し、稽古を明日に控えるまで、俺はただその事ばかりを考えていた。

その日の夜が更ける頃、ふと目を覚ました俺は風に当たろうと、泊まっていた宿を後にした。

だが、困ったことにグランバニアは城の中に城下町を匿っているため、表に出るには城の上を上らなければならなかった。
「風に当たるのも一苦労…ああ、もうっ!」
俺は愚痴を零しながら、ひたすら外を目指した。

そして外に出た先には、美しいとしかいいようのない、満月の輝く澄んだ夜空の景色が待っていた。
俺は甲斐を感じ、塀の上に腰を掛けようとした。

すると、耳に美しい音色が入って来た。
俺がその方向を振り向くと、その先には竪琴を奏でる女性の姿があった。
俺の視線に感づいたのか、女性は竪琴を奏でる事をを止め、こちらを向く。

女性は月の光に照らされ、その美貌が浮き彫りにされている。
俺は掛ける言葉を考えていたが、そうしている間に向こうから話しかけて来た。
「ラインハットの兵士…ジム様…ですね?」
「えっ?あ、ああ…」
俺は先に話し掛けられるどころか、名乗る前に自分の名前をあてられてしまい、情けない程たじろいでしまっていた。
とにかく、近付いてみることにする。

彼女の隣に座り込んだ俺は、いきなりながら彼女に質問を持ち掛けた。
「君…名前は?どうして俺の名前を…?」
「私はレルナと申します。ジム様の事は今の私の親代わりであるサンチョ様から伺いました。」
俺はサンチョという名前を聞いたとき、正直、胃を痛めた。
というのも、ラインハットの過去の悪政が原因でちょっと風当たりが冷たいからだ。
どうやら彼女は過去に魔物に両親を殺され、孤独の身となっていたところをサンチョさんに拾われていたらしい。

レルナは自分の事を話し終えると、俺の顔を覗き込んできた。
俺は思わず赤面するが、彼女は少し悲しげな表情だ。
「…なに?」
「寂しそうな目をしておられますね…今まで一人でいらしたのですか?」
「…!」
俺はその言葉に、胸を貫かれるような痛みを感じた。
俺には、腹を割って話せる同僚がいない。
同僚そのものがいないわけではないが、俺のほうが遥かに勝っていることをいいことに、殆ど相手にしていなかった。
考えてみれば、俺は同僚と好意的な話など殆どしてこなかった。
…ヘンリー王子はこれに関係して俺一人を送り出したのか?

少なくとも、この夜でその答えが出ることはなかった。

そして夜が明け、稽古当日。
俺は鉄の防具を身に纏い、鋼の剣を鞘に納め、準備を整える。

練兵場で俺を待っていたのは、対戦相手であるグランバニアの兵士と、合同稽古を見に来た取り巻きの連中だった。
「おいっ!ラインハットの兵士さんだ!」
「がっしりした身体だな〜…リュカ王を思い出すよ!」
「ふふっ…いい男…」
俺は次々と飛び出してくる取り巻きの言葉を背に、対戦相手の元へ向かう。
そしてあと少しという所で、俺は見覚えのある人物に会った。
「ジム様、ご健勝を。」
「レルナ…!君まで見に来たのか?」
「寂しそうなあなたの目…この稽古できっと変わります。」
「…ならいいがな。」
俺は彼女の発言の内容に気になりつつも、早く試合に臨まねばならないため、適当に聞き流した。

対戦相手である、グランバニア兵士・ピピン。
彼は俺と同年代らしく、予想していた以上に若かった。
「あなたがラインハットのジム殿ですね!お手柔らかにお願いします!」
「ああ…そっちの手は硬くてもいいぞ。」
俺は緊張感欲しさにわざと挑発してみせた。
だが、彼…ピピンは全く通じていないらしく、あどけなく笑いながら、鋼の剣を構えている。
「鈍いやつ…だな」
俺は溜息をつきながら、鋼の剣を構えた。

「はじめぇ!」
そして、審判であるサンチョさんの合図と共に、俺達は剣を交えた。

だが、ピピンの実力はまるで期待ハズレだった。
やはり彼は新兵らしく、剣の実力も身のこなしも、たたきあげである俺にはまるで通用しなかった。
俺がその気になりさえすれば、簡単に彼の剣を弾き落とせるのだが、レルナの言葉が頭を過ぎり、俺はなかなか攻撃に徹しきれずにいた。
『寂しそうなあなたの目…この稽古できっと変わります。』
なんだ…?彼女は俺に何を伝えようとした…?

そうしてモタモタしているうちに、ピピンの決死の一撃が俺の頬を掠めた。
「うっ!」
俺の頬に、一筋の赤い筋が出来る。
モタモタしていた自分を呪い、俺はピピンを蹴り飛ばした。
「うわあっ!」
ただ距離をとるためだけに蹴ったのだが、彼には割と堪えたらしく、地面の上を鞠の如く転がっていった。
「まさか…あれだけで効いたってのか?」
俺は拍子抜けを通り越して、興ざめしてしまった。

その時、グランバニアの他の兵士達がピピンに叫びかけた。
「頑張れピピン!負けるな!」
恐らく彼の同僚であろう、何人かの若い兵士達がピピンを応援し始めた。
俺はその時、まるで自分が悪いことをしているかのような錯覚に捕われた。
「そうそう!せっかく向こうから来てくれたんだから、全力で迎えな!」
俺が泊まっていた宿屋の女将が、ピピンを応援する兵士達に加わる。
「か、母さん…ようしっ!」
「…え、母さん?」
俺は思わず目を見開いた。
まさか宿屋の女将がピピンの母親だったとは。
それに気を取られている間にピピンは鋼の剣を杖に、ゆっくりと立ち上がる。
俺はそこに、自分にない力を感じ、いつの間にか後ずさっていた。
「もう…立っていられない筈なのに…!?」

その瞬間、俺の脳裏に幾つかの言葉が過ぎった。
『寂しそうなあなたの目…この稽古できっと変わります。』
『リュカの国の兵士と戦えば、更に強くなれる術を見いだせる。』
「俺に足りないのは…」
俺はその先にある続きを口にすることを恐れ、暫く間を開けた。
だが、口にしないことには前にはすすめないだろう。俺は腹を括った。
「…支えてくれる…仲間…」
俺は精一杯声を絞りだし、力無く俯く。
もし今、俺がピピンの立場だったら…どうなっていただろう…?
同僚の連中は応援するだろうか。
いや、きっと調子に乗った罰だと、嘲笑しただろう。

俺にあって、あいつにないもの。それは一人の強さ。
あいつにあって、俺にないもの。それは仲間との絆。

今更だが、俺はようやく本件の謎を解くことが出来た。
一人で送り出されたのは、協調性の重要度を知らしめるため。俺が更に強くなる術…それは仲間達の信頼を得ること。そして…

俺は振り返り、レルナを見詰めた。
彼女は俺が仲間の大切さに気付いた事を悟ったのか、昨夜には見られなかった、晴れ晴れとした笑顔を見せていた。

俺が寂しい目をしていたのは…腹を割って話せる仲間がいなかったからだ…!

…ラインハットに帰ったら、同僚を食事にでも誘ってみよう。

俺はそれを教えてくれたピピンに誓い、この試合に終止符を打った。

 

その日の夕暮れ、俺はピピンとレルナに見送られ、グランバニアを後にすることになった。
「いやあ、ジム殿、ホントに強いですね!全く歯が立ちませんでしたよ!」
「…勝ったのは、力だけだ。全てにおいては…負けていた。」
「では…ラインハットに帰られたら、今度は全てにおいて勝てるように、頑張って下さいね!」
「…ああ!」
ピピンは俺に負けたことで苦笑いを見せ、レルナは慈愛の微笑みを見せた。
「俺は…俺に欠けているものを手に入れて見せるよ。そしたら、また会いに来る。」
「そしたら、剣術教えてくださいね!」
「ははは、任せておけ。」

…そして、俺は仲間達との絆を求め、グランバニアを後にした。

 

これは、リュカ王が救出されるほんの少し前のお話…

 

〜The Fin〜



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