<ホントの優しさ>
by オリーブドラブ
(ダーマ神殿を目指す、ある旅の少年僧侶が見る、厳しさの裏にある優しさの小さな物語。)

 「リベータ!何度言えばわかる!」
魔物が蔓延る草原のど真ん中に、僕を怒鳴る声が響き渡る。
「わわ、ごめんなさい!バグナレルさんっ!」
僕はただ怯みながら、必死に頭を下げ続ける。
「もういいじゃないかバグナレル。今に始まった事じゃ無いだろ?」
「今に始まった事じゃ無いからこそ問題なんだ!イルマ、お前は黙ってろ!」

僕の名前はリベータ。
田舎村の出身の僧侶で、今はダーマ神殿で修業するという目標を叶えるために、「ルイーダの酒場」で出会った、武闘家のバグナレルさんと戦士のイルマさんという人達にダーマ神殿まで送っていってもらっている旅路の途中なんだ。

ルイーダの酒場でダーマ神殿まで送ってくれるような人を探していた僕を誘ってくれたのは、酒場で働いているロクサーヌさんが紹介してくれた戦士のイルマさんだ。
気は優しいし、なにより強い。揚句の果てには頭もよくて物腰柔らか。ドラゴン斬りの達人でもある。
日々神様を信じて来た僕に幸運の女神様が微笑んでくれたのだと、少なくとも彼が現れた時はそう思っていた。

…そう、彼の相棒である武闘家のバグナレルさんに会うまでは。

バグナレルさんは拳法の達人であり、拳法着の下にある無数の傷痕が、彼の経験を物語っていた。
とても強いし、イルマさんとは何年も一緒に旅をして来た人だ。だから戦いにおいては凄く頼もしい人なんだ。

…で、性格はというと…

「薬草の入った袋を前に出た町の宿屋に忘れて来ただと!?お前の為に俺達がわざわざダーマまで送ってやろうってのに、なんという疫病神だ!テンバタラの野郎に笑われちまわぁ!」
僕の心に幾度となく、罵声という名の矢が突き刺さる。
まあ、実際僕が悪いんだけど…
イルマさんはしばらく僕が怒られている様子を静観していたが、やがて苦笑いしながらポン、とバグナレルさんの肩を叩いた。
「もういいだろ?次の町まで目と鼻の先だし、そこを経由したらダーマ神殿に辿り着けるじゃないか。」
「ふん!だいたいお前ともあろうものがこんな役立たずなガキの為にダーマ神殿に行こうなんて言い出すから、薬草が失われたんだ!」
「また買えばいいじゃないか。あんま力んでばかりだと後々禿げるよ。」
僕は胃が痛いとしか言いようがなかった。
事実、これまで僕は回復魔法のホイミもろくに使いこなせず、二人に迷惑をかけてしまうことがかなり多かった。
きっと僕と彼らのレベルの違いも原因の一つなのかもしれないが、こう何度もバグナレルさんに叱られていると、僕は度々自分がしていることに自信が持てなくなることがあった。
その度にイルマさんに励まされ、僕はここまでやってこれたのだ。
「さ、頭上げなリベータ。もうすぐダーマ神殿だ。頑張ろうな!」
「は、はい…」

そしてダーマ神殿を目前に、僕たちは休憩地点にしていた町で宿をとった。
バグナレルさんは泊まる部屋のベッドに飛び込むと、戦いに疲れたのか、僕を叱る事に疲れたのか、早々にいびきを立てて眠ってしまった。
僕はイルマさんのベッドに座り、そこからバグナレルさんの寝顔を眺めていた。
「いつも怒鳴ってばかりで元気いっぱいに見えるけど、その分疲れてるからよく眠るんだよ。」
「僕の、せい…ですかね…」
「うん?」
イルマさんは不思議そうな顔で僕のほうを見る。
「僕がヘマばかりしなかったら…バグナレルさんはあんなに怒ったりしなかったかも…」

「…君はさ、考えすぎるんだよ。」
「えっ?」
僕は、その時のイルマさんがいつもとは違った、真剣な表情をしていることに気付き、思わず身を引いた。
「バグナレルは俺に対しても君の場合のように怒るじゃないか。俺も同じさ。ヘマしてるのは君だけじゃ無い。」
「…じゃあ、イルマさんは怒られても平気なんですか?」
僕はその時、つい、少し尖った口調で言い放ってしまっていた。
だが、イルマさんは別に咎める事なく話を続ける。
「まあな。あいつは心配性だから、あんな風に怒るんだと解れば気には障らん。」
「…ええ?」
僕は思わず耳を疑ってしまった。
イルマさんは驚き戸惑う僕の様子を見て、「どしたの?」と言わんばかりの顔をしている。
しばらく口をパクパクさせた後、ようやく僕は気を取り直し、イルマさんに問い掛けた。

「バグナレルさんて…心配性…なんですか?」
その時、イルマさんは僕が驚いている訳に気付いたのか、深く頷いて見せた。
「…ああ。あいつはとにかく心配なんだ。気にかけているんだよ。リベータの事も、俺の事も。」
「…じゃ、何で怒るんです…?」
イルマさんは少し間を置くと、僕の目を見ながら口を開く。
「親が子供を叱るのと同じ事さ。あいつは君を嫌って叱ってなどいない。ダーマ神殿に赴くには君は幼すぎる。だからあいつはそこにたどり着くまでに君を少しでも鍛えようと、敢えてああいう態度をとってるのさ。あれくらい厳しくないと、この先君は辛い思いしか出来ないだろうからな。」
「…そんな…」
「君があいつをどう思うかは君自身が決めることだ。けど、ダーマ神殿にたどり着く前に、あいつを誤解しているのなら、それだけは伝えておくよ。俺達は、いつだって君が強くなる日を信じていたんだから…ね。」
イルマさんはそれを最後に、布団のなかに潜り込んでしまった。

「…」
僕は、心臓に槍が突き刺さるような痛みを感じた。
僕の中のバグナレルさんの印象が、みるみる変貌していくのがわかった。
僕は膝に添えた拳をにぎりしめ、歯を食いしばる。
「僕は…僕は…」

次の日の朝、僕らは宿を後にして町を出発する準備をしていた。
イルマさんは薬草の買い出しに出掛け、僕はバグナレルさんと二人きりになっていた。

ひょっとしたら、二人きりになったこともイルマさんの仕業かもしれないが…とにかく、僕はバグナレルさんと話をつけなければならないと感じていた。
僕は憂いを含んだ顔で、バグナレルさんに声を掛ける。

「あの…バグナレルさん、いままで…あなたのこと、悪く思ってたんです。ごめんなさい…」
バグナレルさんは怒るどころかこちらを見ることもせず、静かに口を開いた。
「そう思って当たり前だ。謝るような事じゃない。」
「そう…ですね…すみません…」
「謝るような事じゃないと今言ったばかりだろうが。…全く、イルマの奴め、余計な事を…」
バグナレルさんは腕を組み、地面に唾を吐き捨てた。
「…僕、ダーマ神殿に着いても、きっとくじけずに最後までやり遂げて見せます。」
「ふん…そんな自信が役に立てばいいがな。」

その時、バグナレルさんは僕の瞳を見つめ、重苦しく口を開いた。
「いいかリベータ。ダーマ神殿の修業は伊達ではないぞ。俺の真意が解るのなら、半端な覚悟など捨てろ。いいな。」
「…はいっ!」

僕はいつになく声を張り上げ、神様に誓った。
そして、ホントの優しさを持つバグナレルさんと、それを伝えてくれたイルマさんに!

 

…その後、薬草を買うお金を僕が宿屋に忘れて来た事が発覚し、「会心の一撃」という名の試練が僕を待ち受けていたことは言うまでもない。

 

〜The Fin〜



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