【第9話】

失われた顔


屋敷の二階は薄暗く、所々にランプがついている。キヨさんのもてなしと、みんなとの久々の再会で館の雰囲気でそのときは明るく感じていたが、今はこの館を最初みたときの初印象と同じ、薄気味悪かった。

 先頭にぼくとがっちりした体つきの美樹本さん、次に俊夫さんとみどりさん夫婦、真理、その後ろに香山夫妻とOL二人組み、そして最後にキヨさんという順番で階段をあがった。

「村上さん! どうしました!?」

 先頭のぼくは暗い二階で、あまり先が見えない暗闇に大声で叫んだ。

「キヨさん、廊下はもっと明るくならないのかい?」

 美樹本さんがキヨさんに聞いた。

「はい・・・・申し訳ありません。もともとここは宿泊として使われた建物ではないらしいので余分な電灯などもついてないようで・・・・」

 キヨさんは本当に申し訳なさそうに答える。

「村上さん、大丈夫ですか!? 無事だったら返事をしてください!」

 ぼくはもう一回大声で暗闇にむかって叫んだ。



「こ、こっちだ・・・・・早くきてくれ・・・・・・」



 小さいが、確かに村上さんの声が聞こえた。よかった、村上さんは無事のようだ。

「は、はやく来てくれ!」

 今度は強くはっきりと声が聞こえた。村上さんの声からして、これはただ事ではない。ぼく達は村上さんの声がする方向に懐中電灯を使って進んだ。しばらくすると部屋のドアの前で座りこんでいる男性が見えた。

「村上さん、どうしました!?」

 村上さんは、ぼく達を見つけると一瞬大きく目をひらき、そのあと何も言わずにおびえるように部屋を指差した。あの他人を威圧するような感じはまったく感じなかった。村上さんから見て取れるのは、怯えだった。

 部屋のドアはあいていた。そしてその部屋に近づいた瞬間むせかえるような胸の奥をつくような臭いがした。

「なんだ・・・・この臭いは・・・・」

 その異臭にぼくは鼻を手でおおった。先頭にいるぼくと美樹本さんがまず部屋にはいった。

「う、うわぁ!!!!」

「なんだこれは!!!!」

 美樹本さんもぼくも同時に腰をぬかし足腰がたたなくなった。

 部屋には1つのベットとテーブルがあった。そのベットのシートは赤黒く染められていた。そして、ベットの側にある壁。そこに人が立っていた。いや、張りつけられていたという方が正しい。両手の手のひらには巨大な杭を埋め込まれて血だらけで、その人は壁に張りつけにされていた。そして・・・・・その体には首がなかった。

「キャァア!!!!」

 後から入ってきた真理や可菜子ちゃんも悲鳴をあげた。首がない死体からは大量の血が吹きだしていて衣服を真っ赤に染めていた。ぼく達は急いで部屋から出た。村上さんが大声をあげた理由がわかった。村上さんはこの死体を見て絶叫したのだ。

「な、なんなの・・・・あれは・・・・」

「人が殺されている・・・・・・・」

「殺人事件や・・・・・」

 目の前で人が殺されているということが信じられなかった。

「う、うそよ・・・・あんなの作りものよ!」

 可菜子ちゃんは、手で顔を覆い叫んだ。

 作り物であればどれだけいいことか。だがあれはどうみてもドラマや映画で作られた死体ではなさそうだ。むせ返るような血の臭いがそれを物語っていた。

「も、もう一回中に入ってみたらどうだろうか」

 小林さんは提言したが、それを実行にうつすものは誰もいなかった。それほど目の前で人が殺されている恐怖が大きくぼく達は動けなかった。

「と、とにかく・・このままでは何もわかりません。一度・・・・食堂に戻りましょう」

 ぼくはどうにかそれだけの言葉を言うと、尻もちをしてガタガタ震えている村上さんを立たせ階段を降りていった。この場には一時もいたくなかった。


第9話続き