【第64話】

食文化の違い


エルフの青年レルラは俺達に同行したいと申し出た。

アンを連れ戻したいと。

その想いは同族を助けたいということより恋のようだ。

俺達は了承した。




エルフの隠れ里を出て、丸一日近く西に歩いた。

もうすぐ海にあたるはずだが、その手前で今まで未発掘の洞窟があり

そこにアンとノアニールの青年がいるらしい。

親方からの情報だった。


幸いにも魔物とは出会うことはなかった。

危険があるとはいえ、魔物の数はそれほど多くない。

人を襲うことがあるが、人里離れたところでなければ街には被害はない。


それに魔物一体一体の力は人間より優れていることがあっても

統率力が無く、俺達のような旅慣れたものなら脅威ではなかった。

もし世界の魔物を支配するようなものが現れ、軍を成して襲ってきたら別だろうが。


俺達はほとんど何もしゃべらず黙々と歩き続けた。

しゃべると体力を使うからだ。

半日かけて歩くと洞窟が見えてきた。


「あれか」


ゼネテスも気付いたようだ。日は傾きかけている。


「洞窟がどの程度大きいか、一日で探索できるかわからんから

今日はここで一夜しよう」


ゼネテスの言うことに異論はなかった。

レルラはすぐにでも洞窟に入りたそうだったが、

長く歩いたこともあり疲れもある、残念そうな顔をして頷いた。


ゼネテスは食料を調達しに、その辺を回ってみると言いだした。

荷物を下ろした後、大剣と狩用の弓矢を持ってどこかに行ってしまった。


俺は枯れ木を寄せ集め、火を起こした。

その表情にレルラがぎょっとする。


「どうした?」


「私達は火を使わない。

草木は我らの友、木を焼くということは友を焼くことと同じ行為」


レルラは俺のことを睨んだ。

「だが火をたかなければ魔物が少ないとはいえ、危険だ。

それに飯が食えねぇ。

火があれば魚や肉が焼いて食える。

生では食えないが、火であぶることにより味が出て、食べることができる」


そういうと、レルラはさらに俺を睨んだ。


「私達は魚も肉も食わない!

なんと人間は野蛮なんだ!」


「じゃぁ、あんたらは何を食っているんだ」


俺はレルラの声をさえぎる様に不機嫌に言った。


「我らは自然の恵みである木の実などを食べる。

他の生物を殺して、食すなど…」

俺達が口論をしているとちょうど、ゼネテスが帰ってきた。

一羽のウサギをしとめて手にもっている。

レルラは小さく叫んだ。


「どうした?」


ゼネテスが怪訝そうな声で俺を見る。


「俺達人間が魚や肉を食うのが野蛮なんだとよ」


「はぁ?」


「こうやって火を起す為に木を焼くのも友を焼くのと同じことなのだと」


俺はぶっきらぼうに答えた。


「なんだか、よくわからんが…

せっかく捕ってきた食料は、いらんてことか?」


ゼネテスはレルラに言うが俺達の方を見向きもしない。


「まぁ、いいや。

じゃぁ、飯にしようぜ」


そう言うとゼネテスはショートソードを使い、ウサギを器用にさばきだした。

串にさして、火で焼く。

しばらくするといい具合に肉が焼けてきた。


「こんなに旨そうなのになぁ…」


「ほっとけって」


そう言うと俺は焼けている一本を手にとり、かぶりついた。

やはり焼きたては旨い。

乾燥肉などは常備しているが、洞窟の中など何日の探索になるかわからないところに行くときは、

できるだけ食料がとれるところは確保して、こうやって食うのが良い。


レルラの方をちらりと見ると、木にもたれながら

何か袋を取り出し、木の実のようなものを食べている。


レルラの言うことを理解できなくはない。

俺と奴は人種が違う。食文化も違う。

だから自分達が普段食していないものを目の前で食されたり

火を使うのは理解できないのだろう。

だが、それを頭ごなしに否定されてしまっては話し合いもできない。


どうもエルフは頭の固い連中が多いようだ。

エルフの女王とかに比べれば、レルラの方が俺達に若干は理解はあるようだが…溝は深いようだ。


第65話 旅の知識

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