格安宿
さきに、買い物をしてもよかったのだが、
アリアハンを出てからそれほど時間もたっていないし、
食糧や薬草の方もまだ充分にあるので買う必要はないだろう。
「はい、そうです」
「え、ええと・・・・・そんなに安く泊まって良いんですか?」
「えぇ、かまいませんよ」
「ほんとに、ほんとぉ〜に、いいんですか?」
「えぇ、本当です」
「ほんとの、ほんとの、ほんとぉ〜に、いいんですか?」
「えぇ、ですからかまいません」
ラダトームの城下町にある宿に泊まろうと思ったのだが
よくこれだけ安い値段で,宿の運営ができると思うくらい、
破格の値段で泊まることができたのだ。
私は疑いながらも、部屋をとって
武装解除をしたあとギアガの大穴下りと船こぎで、
汗をかいていたので、お風呂で汗を流した後、
こざっぱりした格好に着替えた。
「う〜ん・・・・・・結構良い宿なのに
なんで、こんなに安いんだろう。
あとで、ふっかけられたりしたら嫌だなぁ・・・・・」
別にお金はあるんだけれど、裏に何かがあるのか
ちょっと不安になったので宿のご主人に
お話を聞くことにした。
「え?宿代が安い理由?」
「はい・・・・」
「う〜ん・・・・・・・
まぁ、こんな時代にお金儲けなんてしてもしょうがないからね。
いつ世の中、滅びるかわからないんだし。
大魔王が明日にでも、世界を滅ぼすかもしれない。
不安で仕方ない毎日だ。
きっと私だけじゃないだろう。
だったら、お客さんに、少しでも喜んでもらおうと思って。
もう、ほとんどボランティアみたいなもんだけれどね」
大魔王の存在は、本当に人々に苦しみを与えているんだ。
もう苦しみというより、絶望を通り過ぎて
あきらめという気持ちかもしれない。
その心は賛成しがたいけれど
でも、このご主人の人柄が大変いい人だと思った。
私はそのご主人の人柄に感動した。
「そうだったんですか・・・・・」
「っと、年頃のお嬢ちゃんには
こんな話はしないほうがよかったかな」
どういう意味でいったのかは読みとれなかったが
たぶん、これから先、楽しい年頃なのに、
それが楽しめるかわからないという意味でいったのだと思う。
私は部屋に戻った後、ベットに横になり、
天井を見上げ、ぼぉ〜っとした。
これから、私は、神竜や竜の女王様を封じ込めた
神の力に匹敵するかもしれないゾーマと対決しなければいけない。
ゾーマってどのくらい強いんだろう・・・・
その全貌が闇に包まれている中、
まったくこれから敵対するものが実感がわかなかった。
ただ、実感したのは、アリアハンの宴の席で
何人物人を殺した、あの稲光と
ゾーマの地の底から響く不気味な声は忘れられない。
ベットに横たわりながら、窓から景色を見ていた。
辺りは真っ暗だった。
今は夜なんだな・・・・・・・
夜にしては、ずいぶん、街は賑やかだったけれど。
しかし、このアレフガルドがゾーマの巨大な魔力で
太陽の力を消し去り、朝が来ないと知ったのは
後のことだった。
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